HYDE オフィシャルインタビュー「救
いにはならなくても、10年後にまた“
あの曲を聴きたい”って言ってもらえ
るものになってほしいなとは思ってる

HYDEが再びソロとして本格的に動き始めた。昨年11月に報じられたVAMPSの活動休止からほとんどインターバルを置くことなく、2本のツアーを発表し、すでにそのうちの1本であるアジアツアー“HYDE ACOUSTIC CONCERT TOUR 2018 - 黑ミサ ASIA - ”では大成功を収めたHYDE。6月29日からはいよいよ国内ツアー“HYDE LIVE 2018”もスタートするが、それに先駆けて6月27日、待望のソロ再始動第一弾シングルが届く。プロデューサーにニコラス・ファーロング(Nicholas Furlong)を迎えてアメリカにて制作、「WHO'S GONNA SAVE US」とタイトルされた今作は、シンセサイザーとヘヴィロックの融合を具現化させた意欲作にして彼の新境地と呼ぶべき仕上がりだ。名作ホラー映画『シャイニング』のオマージュで話題のMVも必見。さらなる進化を遂げたHYDEと、このニューシングルについて本人にたっぷりと語ってもらった。
救いにはならなくても、10年後にまた“あの曲を聴きたい”って言ってもらえるものになってほしいなとは思ってる。
――ソロとして動き始めて、改めて実感されたことなどありますか。
ソロって自由なんだなと思いましたね。自分の考え方にしてもすごくフレキシブルになったというか、VAMPSはVAMPSでフットワーク軽く、やりたいことをやっていたと思うんだけど、いざソロを始めてみると、それでも固定概念に囚われていたんだなって。今となってはなんでもアリ、なんならロックにこだわることもないし、そういう自分をもう一回楽しんでみようかな、と。
――自由さを特に感じるのは、どういうところでしょう。
自分の裁量ひとつでいろんなことが決まっていくところかな。例えば今回のシングルを決めるときも、周りのスタッフはみんな他の曲を推していて、この曲がいいって言ったのは僕だけでしたから(笑)。
――それが2018年の第一弾シングルとなる「WHO'S GONNA SAVE US」ですね。なぜ、HYDEさんはこの曲を選んだんです?
いや、僕にはこれ以外、考えられなかった。最初からこの曲を第一弾にするって決めてたんですよ。他にも曲はいくつか作っていて、そっちもすごくいいんだけど、周りのみんなは“この曲の良さがわからない”ってぐらいのレベルだったから“マジか!?”と思って。でも、そのときはまだミックスが今の形になる前の段階だったので、僕自身、たしかに気に入ってない部分はあったんです。だったら僕が責任を持って自分の好きな曲にしないとダメだな、と。日本に持ち帰って再構築しよう、と。
――制作自体はアメリカで進められていたんですよね。
そうです。『UNDERWORLD』(VAMPSの4thアルバム/2017年リリース)でのやり方が僕にはすごくよかったし、手応えもあったので、今回のソロでもそれを踏襲したいと思って。この曲に関しては僕が作ったデモを元にプロデューサーのニック(Nicholas Furlong)と作業していったんだけど、彼の手掛けたミックスに対して、ちょっと違うなっていう部分が出てきたんですよね。その後も何回かミックスし直してくれたんだけど、どうしても妥協できなくて。結局、スケジュールの都合で日本に戻らないといけなくなってしまったので、そのときに素材を全部日本に持ち帰って、日本のエンジニアがそれを再構築したんです。
――だからクレジットに“Original Mix”“Additional Mix”と表記されているわけですか。
そう。再構築といっても、ニックが作ったミックスをなるべく壊さないようにしながら、僕の理想の形にしたっていう感じですけど。ニックはヒットメイカーで、いいサウンドを作るから、なるべくそこは曲げたくないんですよ。彼のサウンドを上手く活かした状態で、絶妙に僕のやりたい構成にしていったというか。でも、ときには妥協も必要だなと僕は思ってるけどね。妥協してよかったなって思ったことも実際に何回かあるから、結果として。
――それも最初におっしゃった“固定概念に囚われない”ことかもしれないですね。
できる限りないほうがいいけどね。妥協し過ぎると、完全に自分の曲じゃなくなっちゃうから。自分の曲でもなく、自分が好きな曲でもないっていう(笑)。そんなのはダメでしょ?
――完成した「WHO'S GONNA SAVE US」はHYDEさん自身、納得できる音になっていますか。
もちろん! やっとできましたよ(笑)。ミックスを始めたのが3月くらいだから……ま、ニックも忙しいからずっとかかりっきりってわけじゃなかったんだけど、僕的には最初の目的は達成したかなって。ソロ再始動の第一弾シングルとして相応しい曲になったと思ってます。
――『UNDERWORLD』のやり方を踏襲するというのは、やはり目指しているのは世界水準のサウンド、アメリカで認知される音楽だということですよね。ただ、このシングル曲に関しては『UNDERWORLD』の単なる延長線上ではなく、より洗練された新しい世界が広がっている印象を受けたんです。アメリカンロックの王道でも、ごりごりのラウドミュージックでもない、ヘヴィだけれど端正なサウンドが少し意外でもあって。
シンセとヘヴィロックを融合させた感じだね、今回は。もともとのデモはもっとEDMっぽかったんですよ。それをニックがロック寄りに音像をタイトにしていって、今の形はその中間かな。果たしてこの曲がアメリカ人の好みかっていうとまた別の次元だけど、キャッチーだし、自分の個性も出せていると思うし、自分なりにはいい方向なんじゃないかなって。ただ、今後発表していく曲はまた全然違うもの、バラエティに富んだものになっていくんですけど。
――そもそも曲作りはいつ頃から始められたんですか。
たしか『(HYDE Christmas Concert 2017 )-黑ミサ TOKYO-』が終わったくらいかな。要はVAMPSが活動休止を発表してから。だから去年の12月くらいだね。
――ストックしていた楽曲などは……。
ない!(笑)
――VAMPSの活動休止を決めてからソロとして何ができるか考え始めたんですね。
そうだね。わりとフラットというか一回ゼロにして、これからの計画を練り始めて。最初は1年ぐらい休もうかなとも考えたけど、そんな場合じゃないなと思って、曲を作り始めた感じ。
――ちなみに今作でニック氏とタッグを組むことになった経緯は?
今回のレコーディング期間でスケジュール的に可能な、僕に合うプロデューサーということで10th Street Entertainmentが候補に挙げてくれた中の1人です。もう1人、別の曲で一緒にやってる方がいるんですけど、それは今後のリリースでまたお話するとして。ニックにはどちらかというとライトな曲を担当してもらってるかな。この曲も、僕が彼に渡した軽い雰囲気のデモのうちの1曲で。今後、もっとプロデューサーは増えるかもしれない。
――HYDEさんはニック氏のどういったところに惹かれたんでしょうか。
彼はアメリカの音楽シーンをよく理解していて、極端な話、彼が作った曲を歌うのが僕の目指す場所への近道だって言う人もいるくらい、僕にいちばん足りない部分を持ってる人でもあって。そういう人に僕の曲を預けたらどういう化学変化が起こるかっていうところだよね。やっぱり僕は日本人だからリアルなアメリカのシーンを知らないわけで、知ってるとしても偏ったものでしかないから。
――実際、化学変化は起きました?
ミックスのこともあるし、今回は五分五分かな。日本人とアメリカ人の好みって真逆な部分があるから、そこは難しいところなんだけど。
――作詞もニック氏との共作ですが、どのように構築されていったのでしょう? 強い言葉が並ぶ中、行き詰まった現状を打破したいともがく今の世情を反映しているようでもあり、新たな一歩を踏みだそうとしているHYDEさん自身の心境も映し出されているように感じたのですが。
基本的にはアメリカって常に怒っていないといけない、みたいなところがあって。例えばテイラー・スイフトも曲だけ聴いたらかわいいけど、歌詞を読むとどれも怒ってるじゃないですか(笑)。そういうところも鑑みつつ……僕の中で“法を守っていれば人を守れるのか?”みたいなことを思うことがあって。最近もアメリカで銃の問題があったけど、向こうにいると本当にリアルだからね。近所で発砲事件があったりとか、そういうのを目の当たりにしていると、法が僕たちを守ってくれるわけじゃない、やっぱり自分たちで立ち上がらないとダメだっていうか、それは向こうの社会全体の空気としても感じるしね。で、ミーティングで“最近、思っていることは?”って話し合っていく中で、そういったものがどんどん出てきて、それを最終的にニックが英語に当てはめていったっていう。
VAMPSのときもそうだったけど、一つひとつ、やっていくたびに次が見える。今はこれが僕の最高だけど、今後はもっと変わっていくかもしれない。
――なるほど。ではヴォーカリストとしては今回、どのように臨まれたのでしょう。例えばこれまでにはない歌い方に挑戦してみた、とか。
歌の中で歪みが突然出てくるっていうのは今まであんまりやったことがないかもしれない。そういう意味では新しいと思うね。ひとつの歌の中で静と動が分かれているとか、そういうのはやろうと思ってたから。ただ、英語詞はやっぱり発音で苦労するんですよ。発音に囚われて、どんどん歌が下手になってしまったりするから難しい。
――難しいというのは声の表情とか、そういう部分で?
うん、表情だね。自分では上手くいったと思っても、ニックがそのテイクを選ばなかったりするし(笑)。むしろニックは発音重視で選んだりするから、そのへんのさじ加減が非常に難しくて。でも、なんだかんだで答えは徐々に見えてくると思ってるから。VAMPSのときもそうだったけど、一つひとつ、やっていくたびに次が見える。今はこれが僕の最高だけど、今後はもっと変わっていくかもしれないし。
――客観的にご自身の歌を聴いていかがでしょう。
まあまあかな。90点ぐらいじゃないですか。
――お、高得点。
何言ってるんですか、いつも100点ですよ(笑)。
――すみません(笑)。でも、そうおっしゃいますけど、聴いていてとても鬼気迫るというか、歌詞に滲んだ切迫したムードが絶妙に歌声で表現されてると思いました。なんでしょう、のっぴきならない感じというか。
そう! のっぴきならなさは意識しましたね。その感じがミックスで削られてしまうのがいちばん怖かったので、そこは死守しました。でもニックにあまり伝えられてなかったのかもしれないけど、なぜかどんどん削られていくんだよね(笑)。なので日本でミックスをやり直して危機感を出したんです。
――危機感が歌の重要なポイント。
僕にとってはね。それがないと、ただ単にのんびりした曲になっちゃうなと思って。
――MVにも危機感というテイストは存分に反映されていますよね。この映像の世界観は歌詞から派生したものですか。
いや、最初からあの映像をイメージしてました。歌詞とか曲は関係なく、最初のシングルのMVはあのイメージでいきたいな、と。
――潔いまでのオマージュですが。
はい(笑)。そこが狙いというか、キャッチーな要素として“ああ、あの『シャイニング』ね”って観た人に思わせたいというのが今回、僕のひとつの戦略としてあって。例えばYouTubeでいかに最後まで観させるか。そのためのアイデアでしたね、最初は。
――映像として話題になれば、と?
そういうことです。『シャイニング』だったら“あれ? どこかで観たことあるな”っていう人はたくさんいるだろうけど、たぶん普通に演奏シーンが流れても、そうはならないと思うんだよね。なので今回はオマージュとして使わせてもらいました。
――『シャイニング』という映画自体に思い入れはあるんですか。
好きな映画だけど、特にはないです。純粋に衝撃的で、みんなの知ってるシーンがあるのがいいなって。
――そこに『ブレードランナー』的要素を加えてくるところがHYDEさんらしいですよね。
あれが僕の想い描いているライブのイメージなんです。なくてももちろん大丈夫なんだけど、一応、あの匂いを入れておいたほうがHYDEの今後の展開がわかりやすいかなと思って。
――でも先に映像のアイデアありきとは思えないくらい、楽曲にハマっていました。ラストシーンは“これまでのHYDEを壊して新たなHYDEが取って代わる”“ソロとして生まれ変わる”という意志の暗喩とも解釈できそうです。
結果、そうなったよね。最初はそんなつもりもなくて、単純に映像のアイデアとして思いついただけで。でも後から“これってそういう意味にも取れるな”とは自分でも思ったけど。だって最初はむしろこの役を誰がやったら面白いかってところから考えてたくらいだから。でも俳優さんにお願いするより、自分がやればお金もかからないし……ってここ、笑うところだよ?(笑)
――笑いません(笑)。
ははははは! で、自分がやればストーリー的にも新しい自分が始まるっていう意味にもなるし、ちょうどいいなって。
――ちょっと作品から逸れるのですが、タイトルの「WHO'S GONNA SAVE US」を直訳すれば“誰が私たちを救ってくれるのか?”となりますよね。HYDEさん自身は“救い”について何か思うところはありますか。
結局のところ、自分を救えるのは自分しかいないんじゃないかなって。だってお金がいっぱいあろうが、何を持っていようが、美味しいものを毎日食べていようが、幸せかどうかはまた別な話でしょ?
――でも、音楽が誰かの救いになるとか、そういうことはあると思うんですよ。
ああ……あるね、たしかに。震災のときに“HYDEさんの曲で救われました”とか、そういうお手紙をいただいたときも、それはすごく感じました。音楽って人それぞれ、心のスポットに入っているものがあると思うんですよ。何かのときにその穴から出てきた音楽に救われることは僕にもあるし。
――今、HYDEさんが作っている音楽は救いになりますか。
ならないんじゃない?(笑)  ならないだろうけど、ロックを聴く人にカッコいいと思ってもらえて、10年後にまた“あの曲を聴きたい”って言ってもらえるものになってほしいなとは思ってる。僕がGASTUNKDEAD ENDを聴いて“やっぱり今聴いてもカッケーなぁ!”って思うみたいに。
――カップリングの「MIDNIGHT CELEBRATION II 」は、「MIDNIGHT CELEBRATION」(HYDEの2ndアルバム『6 6 6』収録/2003年リリース)の再アレンジ&再録ヴァージョンですが、こちらはかなりラウドかつヘヴィな方向に振り切れていますね。ライブの定番曲がさらにライブ用に進化したかのような。
基本的にはアレンジャーにお任せで。何人かの方にアレンジしてもらった中で僕はnishi-kenさんのアレンジ、特にAメロのリズムの変化とか、そういうところがアガるなと思って選んだんです。ただ、サビはPABLOのアレンジがよかったんだよね。とはいえ普通はアレンジャーの違うものを1曲に混ぜることができないから、nishi-kenさんにお願いすることにして。そしたらnishi-kenさんはnishi-kenさんで、この曲はPABLOにギターを弾いてもらう予定だったって言うから、じゃあもう合体させちゃえって(笑)。結局、こっちの望み通りの完璧な組み合わせになりました。ライブでもかなり盛り上がると思う。
――まさに、このリリースの2日後、6月29日からはツアー『HYDE LIVE 2018』がスタートします。どんなライブになりそうですか。
僕がやりたかった世界観をより深く、より広げたステージになると思う。ぜひ、実際に観て、感じてもらえたらうれしい。あと、これまで以上に激しくなると思うので、しっかり体調を整えて来てほしいかな(笑)。
――新曲ももちろん披露されますよね。
します! 全部で10曲くらい演奏するつもりでいますね。
――ちなみに初披露って緊張するものですか。
う~ん、緊張するような曲はないんじゃないかな。どの曲も自信を持ってやれると思っているので、楽しみにしていてください。

取材・文=本間夕子

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