乃木坂46・桜井玲香×日本舞踊家・女
優・藤間爽子が難役に挑戦! 中屋敷
法仁の演出、舞台『半神』インタビュ

萩尾望都の短編漫画を原作に、萩尾と野田秀樹が共同で戯曲化した舞台『半神』。1986年に初演されて以降、再演を重ねてきた作品に、劇団「柿喰う客」代表で演出家の中屋敷法仁がこの夏挑むことになった。醜いが高い知能を持つ姉のシュラ役には乃木坂46キャプテンの桜井玲香、美しいが頭が弱い妹のマリア役には日本舞踊家・女優の藤間爽子という配役も決まった。どんな舞台になるのだろう。演出の中屋敷、出演する桜井、藤間の3人に話を聞いた。

(右から)桜井玲香、藤間爽子

同い年で身長もほぼ同じ「最高のキャスティング」
−−『半神』の出演が決まりました。まず、率直な思いをお聞かせください。
藤間:初舞台が野田さんの戯曲作品ということでちょっとびっくりしましたが、中屋敷さんの演出で、プロの方たちと一緒に舞台に立たせていただくのは光栄です。すごく楽しみでもありますが、初舞台ゆえに不安もあります。でも、まずは楽しみたいなと思いますね。
桜井:『半神』はとても難しく深い話なので、すごくやりがいがありそうだなと思いました。私の演じるシュラと爽ちゃんが演じるマリアは結合双生児ということで、どんな感じになるのか楽しみです。そして、ずっと一緒にいる爽ちゃんがすごくいい子だったので、安心しました(笑)
藤間:私が演じるマリアは、誰からも愛される役で。私はあんなに愛されるようなタイプではないので、誰からも愛されるアイドルの桜井さんから秘訣などいろいろと学びたいなと思います。
−−桜井さんと藤間さんは1994年生まれの同い年で、身長もほぼ同じだそうですね。お互いの印象はどうですか?
桜井:全然、真逆だなぁと思います。
藤間:(取材時は)お会いしてまだ2回目なんですけど、共通することは年齢と身長ぐらいで(笑)。容姿も全然違いますし、全然双子という感じではないし、歩んできた道も正反対であるような気がします。
桜井:でも宣伝写真を撮影していて、出来上がった写真を見て、自画自賛ですが、すごくいいなと思いました。
藤間:うん、やっと始まるんだという実感がわきました。
桜井:爽ちゃんは所作がすごく美しいんです。撮影でもどんなポーズでもすごく綺麗。舞踊をやっているからだと思うので、いいところを盗みたいですね。

桜井玲香

藤間:踊る時は気をつけていますけど、普段は全然ですよ(笑)。逆に私は乃木坂46のダンスを拝見すると、あれほど激しく踊るのがすごいなと思っていて。どうしてあんなに速く動けるんだろう、どこに重心をおきながら踊っているんだろうと気になります。
−−キャスティングに関して、中屋敷さんいかがでしょう?
中屋敷:今回のキャスティングはまさに、僕の夢が叶った結果です。『半神』という戯曲は色々なキャスティングで上演されてきましたが、双子を同い年の女優が演じるというパターンは初めてです。さらにそれが、全く異なる芸能のキャリアを積んでいるお二人。同い年だから生まれる調和と、アーティストとしての摩擦。それがマリアとシュラのイメージを豊かに立ち上げてくれると信じています。
桜井さんと藤間さんお二人の「芸」に共通していることは、まずお客様に愛されなければならないということ。そして、ひとりじゃなく集団の中でやらなければならないということだと思います。この愛と集団、というものは『半神』の主題にも深く関わってくるものです。
藤間さんは脈々と続く日本舞踊の伝統の中で、桜井さんは今をときめく乃木坂46というチームの中で活動をされています。立場は違いますが、きっといろいろなことを考えてらっしゃると思うんです。たとえば藤間さんなら家や血を背負うという宿命ですとか、桜井さんならキャプテンとしての責任ですとか……。そういった自分のポジションや生き方を問い続ける姿勢が、この姉妹を演じる上では絶対に必要だと信じています。
−−最高のキャスティングですね。
中屋敷:はい、最高のキャスティングです。これ本当に最高だと思っています。まだ稽古は始まっていないのに、最高だと思います(笑)
「化け物」として演じてほしい
−−現時点で戯曲を読んで感じられることは?
藤間:結局みんな孤独。だけど、孤独は周りがいるから孤独を感じるのかなと思います。誰しもが人とつながっているから孤独を感じるのかなという風に感じました。なかなか難しい戯曲なので全部は理解できないんですけど。
藤間爽子
桜井:普段集団で活動していて、少しでも自分の個性を出さなくてはいけないとか、少しでも自分の存在を確立をしなくてはいけないとか、私自身悩むこともすごく多くて、シュラが悩んでいることが自分自身の悩みともリンクするような感覚がありました。みなさん、個性についてだったり、自分ってなんなんだろうと一度は絶対考えたことがあると思うので、シュラもそれに悩んで、苦しんで、もがいているなぁと思いました。
−−演出プランとしてはどういう風に構想されていますか?
中屋敷:僕が野田秀樹さんの作品を初めて演出したのが『赤鬼』という作品(2014年)でした。その時から“野田戯曲”の一番の魅力は価値観の入れ替えだと思っています。

『半神』での最も大きな要素は「化け物」の存在でしょうか。突如現れた化け物たちが双子に対して、「お前たちは化け物だ。化け物の世界に一緒に来い」などと提案するんです。姉妹はたしかに人間ですが、体はつながって、もうずっと家の中に閉じ込められているわけですから、歩き方・喋り方・姿というものはそもそも人間とは違うものになっているはずです。
ですから、実は二人には姉妹を化け物として演じてほしいと思っています。自分たちのことを女の子だと親たちは言うけれど、もしかすると化け物なんじゃないかな……。片方が醜くて、片方が美しくて、ということよりも、もっと深い部分でそもそも自分たちは人間として扱われるのかなとか……。
そんな扱いを受ける姉妹の姿を通して、2018年に生きるお客さまの価値観を揺さぶっていきたいと思っています。
−−深いですね。ヴィジュアル的にはどうなっていくのでしょう?
中屋敷:単純に体をくっつけると面白くないので、どうしようかなと悩んでいます。僕らは体がくっついた体験がないので、結局本当にくっついている人たちの気持ちは分からない。その心が伝わるようなパフォーマンスにしなければと思っています。
−−演出プランを聞いて、お二人はいかがですか?
桜井:想像以上に複雑だなぁと思いました。
中屋敷:僕、家の中で立って歩かないと思うんですよね。家から外に出ないということはそもそも立って歩けるのかな……もしかしたら四つん這いじゃないかな……とも思って。
藤間:すごい絵になってそうですね。
桜井:深津絵里さんが出演されていた時(1999年)の映像を見たんですが、そういう感じですか?
中屋敷:そういう感じじゃないと思いますね。2018年になって、同じ境遇の人たちへの見方や孤独の意味が変わっている気がするなぁ。
桜井:……あんなことができるかなというのがずっと不安でした。でも今回は中屋敷さんが演出なのでちょっと違うのかなぁとも思っていました。
中屋敷:僕はずっと安心していますよ(笑)。お二人に決まってもうずっと安心。今回は大成功です!(笑)
中屋敷法仁
色んな揺さぶりをかけていきたい
−−藤間さんは今回が初舞台ですね。桜井さんは久しぶりの舞台です。
藤間:日本舞踊では、6歳の時に歌舞伎座で踊ったのが初舞台でしたが、それこそ声を出して、お芝居をするというのは小学校の学芸会以来なんじゃないかなと思います。緊張と不安でいっぱいですが、ある意味何も知らないからこそ、怖くないと言えば怖くないのかなと。何も知らないからこそできることをやっていきたいなぁと思いますし、右も左もわからないので、助けていただきながらやりたいなと思います。
桜井:はい、1年半ぶりなので……今は毎日不安です。
−−そんなお二人にアドバイスはありますか?
中屋敷:“野田戯曲”のもっとも幸せな部分は、「役柄」を共演者同士の関係から生む事ができるということだと思います。「マリアはこう演じなくてはいけない」「シュラはこうあるべきだ」といった限定されたルールがなくて、共演者とのチームワークでそれを探っていきます。
なのでご自身の役は、共演者との関係性が面白ければ、うまく組めればいいと思うので、そういう部分はすごく現代演劇的だなと思います。
桜井さんも藤間さんもすごく説得力があるんです。パフォーマーなんですけど、「面白い自分を見てほしい」とか「可愛い自分を見てほしい」とか全く感じさせないんですよ。本当に僕は二人の声や仕草を素直に見られるので、信頼にたるなぁ。過剰なパフォーマンスをしてくれないので、すごくいい。野田戯曲は素直にやるのが一番いいと思っているので、あんまり考えず、素直な心と体で演じてほしいです。
−−中屋敷さんが野田戯曲でやりたい最大のものは何ですか?
中屋敷:これは僕だけかもしれないですけど、お芝居を見る時に、自分の残酷性に出会えるととても気持ちがいいんです。演劇って、舞台上で人が殺されて、なのに楽しかったりするんですよ。舞台上でひどい人間を見た時に「あいつひどいな」と思いながら自分も同じようなひどいやつかもしれないと思ったりするんです。
上演を通じて自分の残酷性や愚かさに気付けることが、演劇の最も価値のある点だと思っています。その中でも、やはり野田戯曲は最高です。一回読んだだけだととても美しい言葉や楽しいシーンが浮かびあがるけれど、2回、3回と読み返していくとだんだん気持ち悪いものやグロテスクなものが飛び出してくる。上演されたものを見れば、常に頭がフル回転で、舞台を見ながら、新しい自分に何度も出会えるんです。
言葉やヴィジュアルで観客に寄り添いながら、または騙しながら、静かに主題をしみ込ませて行く。そういう意味では現代演劇であり続ける作品だなと思います。『半神』の初演は30年以上前ですが、どう読んでも2018年の新作としか思えないし、そのような気持ちで演出をしたい。いろんな揺さぶりをかけていきたいです。
−−最後に一言お願いします!
藤間:初舞台ということで不安は大きいですが、素直に開放的にマリアを愛しながら演じたいと思います。
桜井:私も考えすぎないように、素直な気持ちでたくさんいろんな表現を自分の中から出していって、最後まで演じていけたらなと思います。
中屋敷:最新作になるのを目標にしています。過去に上演されたものをうまく料理したものではなく、二人の力でもって2018年の新しい作品になるようにしたいです。

(左から)中屋敷法仁、桜井玲香、藤間爽子

取材・文=五月女菜穂 撮影=荒川潤

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