空想科学研究所:柳田理科雄さん 撮影:熊谷仁男

空想科学研究所:柳田理科雄さん 撮影:熊谷仁男

“マッハで走る男”と“空飛ぶ最強美
少女”が実在したら…アメコミヒーロ
ーの超能力を「空想科学研究所」が検
証してみた

アメコミドラマにはさまざまなスーパーパワーを持ったヒーローたちが活躍します。そもそもあのようなパワーって“現実的”なのでしょうか? 空想科学研究所の主任研究員、柳田理科雄さんに実際ありえるのか、もしありえるとしたらどこまでの能力なのかを科学的に検証してもらいました。

DCドラマには様々なヒーローが登場します。そしてヒーローには大きく2タイプあって、ひとつは弓矢を使って悪を倒す“アロー”のように極めて身体能力は高いけれど、基本は普通の人間。
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そしてもうひとつはスーパーガールのような、スーパーパワーを持った超人たちです。
ものすごい根性があって鍛えればアローにはなれるかもしれませんが(笑)、てっとりばやくスーパーパワーを身に付けられたらそっちの方がいいですよね。
でも、そもそもあのようなスーパーパワーって”現実的”なのでしょうか?
そんな疑問にこたえるべく、あの空想科学研究所の主任研究員、柳田理科雄さんに、スーパーヒーローたちの特殊な力を科学的視点で検証してもらいました。
今回、柳田さんに検証をお願いしたいのは、“地上最速の男・フラッシュ“、“空飛ぶ最強美少女・スーパーガール”です。
検証1:地上最速の男・フラッシュ杉山:よろしくお願いします。早速なんですが、そもそもアメコミのスーパーヒーローものって、そのオリジン(誕生秘話)があっさりしてます。
特殊なクモにかまれたから力を得たとか、宇宙線をあびたとか、そもそもエイリアンだったから、とか(笑)逆に言うとヒーローがなぜそんな力を持てるのか、その理由づけには悩んでいないんですけど……。
柳田:なるほど(笑)。ただ、アメコミのヒーローは、空が飛べたらいいな、すごく速く走れたらいいな、というような人間の憧れをストレートに具現化していますから、そこが素敵ですよね。
杉山:ええ。それでDCコミックスにもいろいろスーパーヒーローがいるのですが、まずは検証していただきたいのが地上最速の男・フラッシュです。「速い!」ということに特化したヒーローです。
柳田:ドラマ版では、粒子加速器の事故で雷に打たれてましたよね。
杉山:そうです。原作コミックだと落雷事故のときに、大量の化学薬品を浴びてそういう体質になってしまった。ドラマ版だとさらに粒子加速器の事故で放出されたダーク・マターが作用して……みたいな展開です。
ただ本人の肉体が超スピードで動けるように変化した、というより、”スピードフォース”と呼ばれるエネルギーを操れるようになった、と、そういう設定なんです。
人間が速く走るための条件=ひたすら筋力
柳田:それはうまい設定ですね。
杉山:といいますと?
柳田:人間が速く走るための条件というのは、フォームやテクニックを別にすれば、ひたすら筋力なんです。
劇中の活躍から考えると、フラッシュには「ウサイン・ボルトの1万倍の筋力」が必要になる。
杉山:1万倍!?
柳田:スピードは、筋力の2乗に比例します。話を単純にするために、ボルトが100mを10秒で走るとします。一方ドラマでは、フラッシュは100mを0.1秒ぐらいのスピードで走っています。
これはボルトの100倍の速さだから、100の2乗で、1万倍の筋力が必要となります。
杉山:ああ、そうか。
柳田:いくらなんでも1万倍の筋力を身につけるのは難しいでしょうから、“スピードフォース”によって、1万倍の筋力に相当するような力を発揮しているのではないでしょうか。
フラッシュのジャンプ力は、ウサイン・ボルトの1万倍!
杉山:おお、なるほど。
柳田:だとしたら、すごいですよ。”走る”っていう行為は実はジャンプの連続ですから、フラッシュのジャンプ力もボルトの1万倍あるはずです。
仮にボルトのジャンプ力が80㎝なら、フラッシュは1万倍で8000mのジャンプ力を持っていることになる。
つまりジャンプ1回でエベレストの九合目ぐらいまで届く!
杉山:ジャンプしただけで!
柳田:フラッシュは、高いビルを垂直で駆け上がっていますが、あれはジャンプでもいけるわけです。
杉山:おおお!“スピードフォース”が操れたら、もう無敵ですね!?
気になる問題は、速度による熱の発生。コスチュームは顔が出ているが…
柳田:僕がちょっと気になるのは、断熱圧縮の問題かなあ。
杉山:断熱圧縮?
柳田:さっきフラッシュの速度を「100mを0.1秒」つまり秒速1000mと推定しましたが、これは時速3600㎞でおおよそマッハ3です。
これだけのスピードになると、体にぶつかる空気は逃げ場がなくて圧縮されます。空気は圧縮されると温度が上がります。
これが断熱圧縮で、たとえば流れ星が光るのも断熱圧縮によって、熱が発生するからです。
これは公式があって、仮に気温が23度のときにマッハ3で移動する物体は、断熱圧縮によって560度の高温になります。
杉山:普通の服なら燃えてしまう。
柳田:合成皮革は500度で発火します。天然のレザーだったらもう少しいけますから、彼のコスチュームには合成皮革素材が使われていないことを祈ります。
杉山:あのコスチュームは素顔が出ていますけど……。
柳田:うーん。そこはものすごく心配です。
杉山:速すぎるのも大変ということですね。
柳田:ええ、マッハ3くらいでも結構キケンだと思うのですが、他のシーンで考えると、もっと恐ろしいことになる。飛んでくる弾丸がスローモーションにみたいに見えてかわす、みたいなシーンありましたよね。
ピストルの銃弾は、秒速400m。それがフラッシュに秒速10㎝に見えたとするなら、彼のスピード感覚は人間の4000倍です。
それに伴って、もし走るスピードもボルトの4000倍だとしたら、マッハ1180というとんでもない速さになる。
その場合、断熱圧縮で温度は83 万度に上がります。
杉山:えっ、83 万度!?
柳田:地球の物質は1万度ですべて蒸発するので、あのコスチュームがどんな素材で作られていようとも役にたちません。
杉山:うわあ。
柳田:だから”スピードフォース”が、筋力だけでなく、断熱圧縮の問題をもカバーしている、と考えるべきでしょうね。
杉山:なるほど。本当にそうであってもらいたい。
柳田:ちなみに、音の速さは、気温でも変わるんですよ。
杉山:そうなんですか?
柳田:寒いと遅くなる。気温0度だと音は秒速330m、30度だと秒速350mぐらいになります。
杉山:あああ!だからフラッシュの敵には、キャプテン・コールドとかキラー・フロストとか、寒さを武器にするヴィランが多いのかな(笑)。
柳田:そうかもしれません(笑)。
スーパーガールを検証!
検証2:空飛ぶ最強美少女・スーパーガール杉山:スーパーガールは、スーパーマンの従姉で、ほぼほぼスーパーマンと同じスペックを持っています。
柳田:彼女はエイリアンですよね。
杉山:そうです。惑星クリプトンの出身です。それで惑星クリプトンを照らす太陽は赤くレッド・サンと呼ばれ、
地球の太陽は黄色いのでイエロー・サン。この太陽光線の違いが彼女たちを超人にした、という設定です。
どういう超人スペックかと言うと、「空を飛べる」「無敵の肉体」「怪力」「遠くの音や声が聴きとれるスーパーヒアリング」「目から熱光線・Xーレイ発射」「超低温の息=コールドブレスを吐く」です。
柳田:すごいですね(笑)。ではまず「目からの熱光線」について検証してみましょう。そもそも目というのは、光を受け取る器官であって、光を発射する仕組みはありません。
杉山:確かに、そうですね。
柳田:人間の目には、目の中に入る光の量を調整する”虹彩(こうさい)”という部分があります。この虹彩が光をさえぎるわけですが、もし光を発射する虹彩があるなら、目から光を出すこともできるでしょう。
杉山:なるほど、なるほど。
体脂肪で目から光線!?
柳田:ドラマの中で、熱線でタンカーのチェーンを焼ききるシーンがありました。ああいうことができるとしたら、あの光はレーザー光線だと思われます。
杉山:レーザー光線?
柳田:狭い面積にエネルギーを集中できる光です。チェーンを焼き切ったからには、彼女の虹彩にはレーザーを発射できる機能があるに違いない!
杉山:それはどういう……?
柳田:基本的なルビーレーザーの仕組みはこうです。ネオンの親戚のキセノンというガスにエネルギーを与えて光らせます。
その光をルビーに含まれるクロムという物質が吸収すると、クロムは決まった波長の光を大量に放出します。
ルビーを鏡で挟むと、その大量の光が行き来しているうちに、光の山と谷が揃ってくる。それをビームとして発射します。
これと同じような仕組みが彼女の目にあればいいのです。
杉山:おおお!それがあれば目からレーザー光線が出る!?
柳田:キセノンを光らせるエネルギーはなんでもかまいませんから、たとえば体脂肪を燃やすというのもありかもしれません。
杉山:体脂肪で目から光線……ですか?
柳田:スーパーガールが眼からの光線で焼き切った鎖が直径3㎝で、0.5秒で10㎝の長さが溶けたとすると、4000キロワットぐらいの出力が必要です。
これを出すには、480キロカロリーのエネルギーがいりますから、そのためには体脂肪53g燃やす必要がある。
杉山:たった53gでいいの?
柳田:結構大変ですよ、これ。体脂肪53g、つまり480キロカロリー消費するというのは、彼女の体格だと8㎞走るぐらいの運動量です。
杉山:あー、8km走るのと同じぐらいの運動を、あの一瞬の光線技で!?
柳田:そうです。かなりしんどいですよね。光線発射するとき、ちょっと彼女は力(りき)んでいますけど、あれは体力を使うからではないかなあ。
杉山:コールドブレスはどうですか?
柳田:あれもすごく体力を使うはずです。コールドブレスは、フラッシュのときに説明した断熱圧縮の逆で、断熱冷却だと思います。
杉山:断熱冷却?
柳田:圧縮したガスを放出すると冷たくなるんです。コールドスプレーも、ボンベに圧縮したガスが詰まっていて、それを勢いよく放出することで冷たくなります。あれと同じです。
おそらくスーパーガールは肺に空気をため込んで、圧縮して一気に吐いているんじゃないでしょうか。
杉山:人間コールドスプレー!
柳田:コールドスプレーはスプレー缶自体も冷たくなりますけど、彼女の体も冷えているかもしれない。
杉山:うーん。ヒートビジョン(目からの熱光線)もコールドブレスも大変ですね。だからそれらの技は、乱発しないんだ。やっぱりパンチとかで戦う方が楽かも。
スーパーガールの怪力を発揮しようと思ったら、二の腕の直径が2m40㎝ぐらい必要
柳田:スーパーガールの怪力はすごいですよね。
人間の筋肉であれだけの怪力を発揮しようと思ったら、二の腕の直径が2m40㎝ぐらい必要です。
杉山:えええ??
柳田:第一話で墜落しそうな飛行機を助けますよね。飛行機自体がまだ自力で飛行できたから、あのシチュエーションだと70トンぐらいの重さを両腕で支えていたと考えましょう。
男子重量挙げ(クリーン&ジャーク)の世界記録が263㎏です。その選手の腕の直径を15㎝とすると、スーパーガールの腕は、直径2m40㎝の太さが必要、という話になる。
もちろんあくまでも筋肉の性質が人間と同じだとしたら、ですが。
杉山:目といい腕の筋肉といい、僕らとは別の肉体なんですね。
柳田:間違いなくそうでしょう。普通の女性は20㎏くらいを持ち上げられると思いますが、スーパーガールの場合、70トン。
単純計算で、人間の3500倍の力を発揮できる筋肉ということになります。
僕らには理解できない仕組みなのかもしれません。
杉山:最後に、スーパーガールの飛行について伺いたいのですが。
柳田:それも難問ですよね。彼女はなぜ、あんなふうに空を飛べるのか……。理屈を考えると、僕は行き詰ってしまいます。
あのマントを使ってハンググライダーみたいに滑空していることも考えられるのですが、そうなるとマントがバタバタはためいているのが不思議です。
ハンググライダーの翼は、風をはらんで同じ形を保っているので……。
杉山:なるほど
柳田:すごいジャンプでひとっとび、だったら可能です。途轍もない脚力の持ち主ですから。
杉山:飛んでいるというより、跳んでいる?
柳田:彼女はK1選手50万人分のキック力を持っていると考えられます。
シーズン1の最初のエピソードで、蹴られたエイリアンがぶっとんで、アスファルトの上を壊して滑っていくシーンがありましたよね。
あのエイリアンの体重を100㎏、アスファルトを幅2m、厚さを10㎝と仮定し、10m滑ったとしましょう。
あのアスファルトの破損ぶりからして、エイリアンはマッハ9.7のスピードでアスファルトに叩きつけられたと考えられます。そうなると彼女のキック力は50万トン。
K1の選手で1トンのキック力ですから50万人分です。上向きに45度の角度であのエイリアンを蹴っていたら、1100km先、つまり東京から稚内ぐらいまで蹴り飛ばせたはずですね。
杉山:ははは。スーパーガール怒らせたら本当に怖いな。
柳田:でも、クリプトン星の出身ですからね。やっぱりジャンプしていると考えるのではなく、僕らにはまだ理解できない原理で自由自在に飛翔している……と考えたいですよね。
杉山:そうですね。謎が多い女性には惹かれますよね。ぜひ一度つき合ってみたい。(笑)
いやあ科学って本当に面白いですね! 今日はありがとうございました!

楽しい講義でした。
とても印象的だったのは、柳田さんがアメコミのヒーローは、空が飛べたらいいな、すごく速く走れたらいいな、というような人間の憧れをストレートに具現化していて、そこがすごい、と。
また機会があれば、柳田さんとは、他のDCヒーロー、ワンダーウーマンやアクアマンについてもお話をうかがいたいですね。
こういう見方で、ヒーロー物を見るとまた違った楽しみ方が味わえますよ。
取材協力:空想科学研究所

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