【インタビュー】フーデッド・メナス
、これぞ遅いデス・メタル

フィンランドが誇るドゥーム/デス・マスター、フーデッド・メナスが、5枚目となるアルバム『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』をリリースする。
ドゥーム/デス…すなわち遅いデス・メタルなんて言われると、上級者向けのエクストリーム・メタルと身構えてしまうかもしれない。しかし『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』は非常にメロディックでありメランコリックな作品だ。バッキングはツイン・ギターが美しくも不気味なメロディを奏で、叙情性あふれるスローなヘヴィ・メタル・サウンドがうごめいている。ドゥーム・メタル、デス・メタルの上級者はもちろん、初めて「遅い音楽」の魅惑的な世界を覗いてみようという初心者にも優しい作品、それが『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』だ。
リーダーでありギタリストのラッセ・ピューッコに話を聞いた。
──フーデッド・メナス(=フードをかぶった脅威)というのは面白いバンド名ですね。
ラッセ:このバンド名は、1970年代のスペインのホラー映画『エル・ゾンビ』のシリーズにちなんでいるんだ。この映画を見れば、この名前の意味がわかると思うよ。
──ニュー・アルバム『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』は、以前の作品と比べてどのような仕上がりになっていますか。
ラッセ:今回はさらにメロディックに、さらにメランコリックに…という感じだよ。まあフーデッド・メナスの新作が出るたびに同じことを言っている気はするけど(笑)。今回のアルバムは、前作『Darkness Drips Forth』ほど遅かったり、曲が長かったりすることはない。あれはほとんどフューネラル・ドゥームの域に達している部分もあったからね。『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』は、バンド史上最もキャッチーな曲が入っていると思うし、一方で前作よりも激しいリフもある。間違いなく俺たちとしてはもっとも成熟したデス/ドゥーム作品に仕上がっている。それから、今回初めて俺がボーカルを担当しなかったんだ。だから、もしかしたらファンの間でその点が賛否両論になるかもしれないな。ハッリ・クオッカネンが新しくフルタイムのボーカリストとして加入したんだ。彼はこのアルバムでも素晴らしい仕事をしたよ。仕上がりには最高に満足している。きっとファンも彼の声にすぐに慣れるだろうと思うし、そうでなくても、少なくとも俺たちは満足さ。つまるところ、アーティストとして自分たちが満足できるということが重要だからね。
──結成から10年経っていますが、このタイミングで新たにボーカリストを加えようと思ったのはなぜですか。
ラッセ:実を言うと、俺はまったくボーカルをやるのが好きじゃないんだ。これまでもレコーディングの時は仕方なくボーカルもやっていたけれど、ライヴではライヴ用のボーカリストを入れていた。だけどやっとついにハッリを見つけることができたからね。彼はもちろんレコーディングだけでなくライヴでも歌う予定さ。彼の声質は、まさにこういう音楽向けだから。言ってる意味わかるだろう?
──『オシュアリウム・シルエッツ・アンハロウド』の歌詞の内容は、どんな感じなのでしょう。今回も、古いホラー映画からインスピレーションを受けているのですか?
ラッセ:いつもどおり古いホラー映画からのインスピレーションだよ。今回はシュールレアリスティックなホラー映画や、シュールレアリスティックな悪夢からのインスピレーションと言ったほうが適切かな。歌詞的には、前作『Darkness Drips Forth』と同じ流れにある。あまり歌詞について具体的には語りたくないけどね…リスナー自身に好きなように解釈してもらいたいから。
──具体的に、どのあたりのホラー映画から影響を受けたのでしょうか。1曲目の「センピターナル・グロテスケリーズ」は、「死体たちが馬に乗る」なんていうフレーズもありますし、やはり『エル・ゾンビ』なのでしょうか。
ラッセ:ニュー・アルバムの歌詞に関しては、どのホラー映画がソースなのかは明かさないことに決めたんだ。リスナーに余計な先入観を持ってほしくないからね。それにどの歌詞も、決して特定の映画に基づいて書かれているわけではない。もちろんインスピレーションは受けているけれど、それと映画の内容に基づいて歌詞を書くことには、大きな違いがある。最初に公開した「チャーネル・リフレクションズ」だけは例外的にインスピレーション元を明かしているのだけど、これは『Demons of the Mind』だよ。「センピターナル・グロテスケリーズ」に関しては、君の推測が間違っているとは言えないな...。
──フーデッド・メナスの作品を聴いていると、AutopsyやCandlemassTroubleからの影響を強く感じます。
ラッセ:その通りだね。それからCathedralやParadise Lost、さらに初期のAnathemaMy Dying Brideの名前も挙げるべきだろう。
──そもそもドゥーム/デスというスタイルをプレイしようと思ったきっかけは?
ラッセ:もちろんこういうスタイルの音楽が大好きだったからさ。俺は1980年代のCandlemassのアルバムやAutopsy、初期のCathedral、Paradise Lostなどを聴いて育った。だからこういう音楽は、俺のDNAに刻まれているんだ。このバンドを結成したころは、今みたいにたくさんのデス/ドゥームのスタイルをプレイしているバンドは多くなかったし、俺が聴きたいと思うようなスタイルでプレイしているやつらも見当たらなかった。偉そうなことを言うつもりもないし、他のバンドをけなすつもりももちろんないけど、正直言って当時、俺が考える正しいデス/ドゥームをプレイしているバンドは見当たらなかった。つまりスーパー・ヘヴィで不気味で、だけどメロディが多少あってキャッチーな曲をやっているバンドだ。速いパートは無く、クリーン・ボーカルもヴァイオリンもチェロもキーボードも無くて、気取ったところや赤ワインがお似合いのゴシックなロマンティシズムも無い。そういうバンドは見当たらなかった。俺は決してフーデッド・メナスが孤高のバンドだなんて言いたいんじゃない。これが俺たちのデス/ドゥームの解釈というだけだ。さっき挙げたバンドからの影響は顕著だと思うけれど、俺たちの音楽には俺たちの刻印が至るところに押されているだろう?
──ドゥーム/デスというジャンルはどのように始まったのでしょう。始祖はどのあたりのバンドですか?
ラッセ:俺はWinterとParadise Lostがまず思い浮かぶね。Dream Deathを挙げる人もいるだろうと思うけど、正直俺はDream Deathはまったく聴いていなかった。個人的にはCathedralをこの文脈に付け加えたい。彼らのデモを発表直後に聴いたときは、まさにこれこそドゥーム/デスだと思った。実際には「エクストリーム・ドゥーム」などと形容する方が正確だったのだろうけど。俺的にはボーカルはもっと深くデス・メタル寄りにするべきだと思ったけど、明らかにCathedralのスタイルは、CandlemassやTroubleみたいなドゥーム・メタル・バンドと並べるには、ボーカルはあまりにラフでメロディを欠いていたよね。もちろん反論もあるだろうけれど、俺はCathedralを初めて聴いたころは、こんな風に感じていたんだ。Autopsyもドゥーム・メタルの要素を『Retribution for the Dead』と『Mental Funeral』あたりで取り入れ始めた。これらも非常に影響力のある作品さ。
──フィンランドのドゥーム/デスのシーンはどんな感じですか。フィンランドは早くからスローなデス・メタルをプレイするバンドが多くいた印象があるのですが。Thergothonなどもいましたし。
ラッセ:ドゥーミーなのをやっていた初期のフィンランドのバンドは、とてもオリジナリティがあったよね。UnholyやThergothon、Exitusとか。まあ彼らのスタイルが厳密にドゥーム/デスと呼ばれるものであるかは、ちょっと微妙な気もするけれど。Rippikouluなんかはドゥーム/デスだったね。
──フーデッド・メナスは大量にスプリット作品を出していますよね。これはなぜなのですか?
ラッセ:好きでリスペクトしているバンドとスプリットの作品を出すというのは、とても素晴らしいことだよ。これまでは俺たちはたくさんのスプリットを出せるくらい多作だったし、なるべく忙しくアクティヴでいることを好んできた。だけど、今後このペースを保っていくのは難しいとも思っている。もうアルバムもこれで5枚目だし、おそらく今後は、曲をスプリット作品でどんどん吐き出してしまうのではなく、将来のフルレングスのためにとっておくという方が賢明だと感じているんだ。もちろんネタが尽きたというわけではないけど、自分たちで設定した基準をクリアし続けていくというのは、どんどん難しくなっていくからね。でもまあ、どうなるかはよくわからないな。習慣というのは簡単に変えられないからさ(笑)。
──日本のCoffinsともスプリットを出していますよね。
ラッセ:Coffinsとはスプリットもやったし、彼らがヨーロッパ・ツアーでフィンランドに来たときに、一緒にプレイもしたよ。彼らは素晴らしいバンドだし、とてもナイス・ガイだ。ウチノとは、いつか一緒にもっと長いツアーをやろうとときどき話しているのだけど。
──フィンランドというのは非常にヘヴィ・メタルが盛んな国であるという印象がありますが、これはなぜなのでしょう。
ラッセ:確かにヘヴィ・メタルはとても人気があるよ。これはおそらく、フィンランド人がメランコリーを好むという傾向と関係があるのだと思う。メランコリーは、常に暗くて寒いというフィンランドの気候と大きく関係しているのだろう。それにフィンランドは非常に人口密度が低い、孤立した国であるというのもメランコリーを加速させる原因にもなっているかもしれない。メタルというのは基本的に暗い音楽であるということを考えると、こういうタイプのメンタリティが、ヘヴィ・メタル人気の理由と言えるんじゃないかな。メタルはこの国では社会的に受け入れられていて、バンドはさまざまな団体からサポートを受けられるんだ。スタジオやツアーの資金の援助を受けられたりね。それに長くて寒い冬のせいで、キッズは家で楽器の練習をするか、レコード聴いてるしかないのさ(笑)。
──お気に入りのアルバムを3枚教えてください。
ラッセ:メタルに限定したとしても、たった3枚を選ぶというのは難しいなあ。とりあえず文句無しの3枚を挙げると、Slayerの『Reign in Blood』、Metallicaの『Master of Puppets』、Candlemassの『Epicus Doomicus Metallicus』だね。
──お好きなホラー映画はどうでしょう。
ラッセ:これもすべて答えるのは不可能だけど、『The Beyond』、『Suspiria』、『Day of the Dead』あたりだね。
──では最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。
ラッセ:アルバムが日本でリリースされて、日本にドゥームを撒き散らすことができるなんてとてもエキサイティングだね。ニュー・アルバムを気に入ってもらえるといいな。もちろん君たちの美しい国で、そう遠くないうちにプレイできることを望んでいるよ。
取材・文:川嶋未来/SIGH

Photo by Pasi Nevalaita

フーデッド・メナス『オシュアリウム・
シルエッツ・アンハロウド』

2018年2月2日

【CD】¥2,300+税

※日本盤限定ボーナストラック2曲収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き

1.センピターナル・グロテスケリーズ

2.イン・イリー・デリヴァランス

3.カシードラル・オブ・ラビリンシン・ダークネス

4.カスケイド・オブ・アッシュズ

5.チャーネル・リフレクションズ

6.ブラック・モズ

《ボーナストラック》

7.ソローズ・オブ・ザ・ムーン

《日本盤限定ボーナストラック》

8.センピターナル・グロテスケリーズ(デモ)

9.カスケイド・オブ・アッシュズ(デモ)
【メンバー】

ハリ・クオッカネン(ボーカル)

ラッセ・ピューッコ(ギター)

テーム・ハンノネン(ギター)

オツォ・ウッコネン(ドラムス)

アンティ・ポウタネン(ベース)

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