【インタビュー】ファーザー・ジョン
・ミスティ「“成功しなくたっていい
んだ”と思えた」

ファーザー・ジョン・ミスティことジョシュ・ティルマンが<FUJI ROCK FESTIVAL '17>出演のため来日し、ベスト・アクトの呼び声も高い圧倒的なパフォーマンスを披露した。今年6年ぶりのニュー・アルバム『クラック-アップ』をリリースしたシアトルのフォーク・ロック・バンド、フリート・フォクシーズのドラマーだったとは思えない堂に入ったエンターテイナーぶりに、すっかり魅了された人も多かったことだろう。
先日シンコーミュージックから刊行された書籍『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』では、ビルボード初登場10位を記録した最新作『ピュア・コメディ』について語ったジョシュだが、そんな彼から音楽的なルーツについて話を訊いた。
取材・文:清水祐也(Monchicon!)
──今からちょうど5年前、カリフォルニアのソノマ・ヴァレーのフェスティバルで会った青年に、彼がやっているパーリー・ゲイト・ミュージックというプロジェクトのCDを渡されたのですが、後日それがあなたの弟のザック・ティルマンだったと知って驚きました。彼はあなたの過去作にもよく参加していましたが、最近は元気ですか?
ジョシュ・ティルマン:ワオ!ああ、彼は元気だよ。実は来年の1月に新しいアルバムを出すんだ。
──あなたは参加してないんですか?
ジョシュ・ティルマン:いや、でも君が渡されたそのアルバムは、僕らがシアトルで一緒に住んでいた頃、毎日夜中の2時から6時ぐらいの間にレコーディングしたんだよ。バーから帰ってきた後に、ラップトップでね。彼は僕のファースト・アルバムの『Fear Fun』でもベースを弾いてるんだ。「O I Long To Feel Your Arms Around Me」と「Now I'm Learning To Love The War」って曲でね。
──そのフェスティバルで、アリエル・ピンクのドラマーだったアーロン・スパースケとも会ったんですけど、ちょうどクビにされたばかりで、「今度はファーザー・ジョン・ミスティのバンドで叩くぜ!」とか言ってたんですよ(笑)。
ジョシュ・ティルマン:アハハ、アーロンはね、雷に2回打たれたんだよ。
──2回クビになったってことですか?
ジョシュ・ティルマン:いや、本当に雷に二回打たれたんだ(笑)。それが彼のすべてを言い表しているね。
──ザックとあなたは、サクソン・ショアというポスト・ロック・バンドのメンバーだったんですよね。
ジョシュ・ティルマン:うん、僕が21歳でザックはまだ20歳だったから、バーでライブをする時は、彼のためにみんなでお酒を買ってあげてたよ。信じられないぐらいケンカしてたね(笑)。
──サクソン・ショアはニューヨークで結成され、その後シアトルに引っ越したそうですね。どうしてまたシアトルだったのでしょう?
ジョシュ・ティルマン:ニューヨークで1年ぐらい大学に通ってたんだけど、それが嫌でね。宗教系のクリスチャンの大学だったんだ。ちょうどその頃、サクソン・ショアを通じて知り合ったシアトル出身の友達が地元に帰ることになって、一緒に車でシアトルまでドライブして、僕はそのまま帰らなかった(笑)。
──それでバンドも脱退したんですか?
ジョシュ・ティルマン:いや、シアトルに引っ越してからも1年ぐらいは続けてたんだけど、自分の音楽に集中したいと思って辞めたんだ。僕が抜けた後で、サクソン・ショアは日本に行ったりして、人気が出たみたいだね。
──シアトルといえば、シンガー・ソングライターのダミアン・ジュラードがあなたの「When I Light Your Darkened Door」という曲をカバーしていましたよね。あなたも彼のアルバムにコメントを寄せたりしていましたが、彼とはどうやって知り合ったんですか?
ジョシュ・ティルマン:僕が20歳くらいの時に、ダミアンと彼の友達がライブハウスの外に立って煙草を吸ってたんだ。僕は当時まだ煙草を吸ってなかったんだけど、煙草を吸えば彼らの仲間に入れると思って、赤いマルボロを買いに行ったんだよ。ちょっと僕には重かったけど(笑)。友達が僕のデモを渡したことがあって、彼も僕のことは知っていたみたいだったけどね。
──彼のアルバムで一番好きなのは?
ジョシュ・ティルマン:たぶん…『Rehearsals for Departure』か『Ghost of David』のどちらかだね。当時の僕は若かったからすべてが新鮮だったけど、『Rehearsals for Departure』はすごく良くプロデュースされていて、逆に次の『Ghost of David』はローファイで、アパートで4トラックで録音したようなサウンドで…そこに魅了されたんだ。これなら僕にもできるってね。
──ダミアンと一緒に、リチャード・バックナーの前座をしたことがあるそうですね。
ジョシュ・ティルマン:うん、もともとはダミアンから、彼のバンドでドラムを叩いてくれないかって頼まれたんだけど、すごく野心があったから、彼らの出演前に僕にも演奏させてくれるように仕向けたんだ(笑)。
──その後で、ファーザー・ジョン・ミスティに改名した理由は?
ジョシュ・ティルマン:J・ティルマン名義で、10年間に8枚のアルバムを作って…自分自身がソングライターとして成功するとは思えなくなっていた時期があったんだ。それで怖くなって、ある晩自分のアパートを飛び出して、車に乗り込んで…カリフォルニアに着くまで運転し続けてみようと思った。みんなが「お前どこに行ったんだ?」って感じだったよ(笑)。当時知り合った女の子からもらったマッシュルームがあって、すごく怖かったんだけど、ビッグ・サーに着いた時に思い切って食べてみたんだ。そこで初めてサイケデリック体験をして、“成功しなくたっていいんだ”と思えた。良いソングライターじゃなくたっていいんだってね。僕は所詮サルなんだから。いろんなことがどうでもよくなって、それで馬鹿げた名前をつけることにしたんだよ。君が言ったダミアンだとか、ボニー・“プリンス”・ビリー、スモッグ…そういうシンガー・ソングライターにずっと憧れてたんだけど、自分はそうじゃないんだから、ユーモアのセンスを活かして曲を書けばいいってことに気がついたんだ。
──あなたのアルバムにも参加している、ペダル・スティール奏者のファーマー・デイヴ・シェールとは関係ないんですか?
ジョシュ・ティルマン:ないよ(笑)。そもそも彼はなんで“ファーマー・デイヴ”って呼ばれてるんだろうね。でも実際、彼のことは「So I'm Growing Old On Magic Mountain」って曲で歌ってるんだ。“ファーマーのポーションを飲んで、僕らは動きがスロー・モーションになった”ってね。
──何なんですかそのポーションは?
ジョシュ・ティルマン:わからない(笑)。MDMAが入ったボトルの水とかじゃないかな。
──(笑)サルと言えば、あなたのファースト・アルバムに入っている「I'm Writing A Novel」という曲は、ちょっとモンキーズの「恋の終列車」っぽいですよね。
ジョシュ・ティルマン:あれは実際、僕がサイケデリックを取るようになって初めて書いた曲で…それ以前とは全然違うんだ。自分がダミアン・ジュラードみたいに聴こえなくても、もっとマヌケで、モンキーズみたいに聴こえたとしても全然気にならなかった。だからその方向に突き進むことにしたんだ。自分自身がカートゥーンのキャラクターみたいになるリスクも厭わないというか…僕はカートゥーンも好きだしね。それが僕にとって、自分に誠実であるってことなんだ。多くの人たちにとって、誠実であるということはボン・イヴェールとかスフィアン・スティーヴンスみたいに悲しげな音楽を奏でることなのかもしれないけど、僕にとってはそうじゃなかった。モンキーズのように聴こえるってことが、自分に誠実だってこともあると思うんだよね。
──カートゥーンの話が出ましたけど、新作のカバーアートを手掛けたエド・スティードのことはどうやって知ったんですか?
ジョシュ・ティルマン:単純に、(雑誌の)『New Yorker』を読んでいて見つけたんだ。『New Yorker』に載ってるカートゥーンは、どれも陳腐で最悪だよね(笑)。でもその中で目を惹いたのがエド・スティードで、当時の彼はまだイノセントだったんだけど、作風がどんどんダークになっていったんだ。僕も子供の頃はカートゥーン作家になりたくて、『カルビンとホッブス』みたいなのが描いてみたかったんだけど、そこまで上手くなくて…当時からサイケデリックを知っていれば、すごいことになったんだろうね(笑)。だから僕のアルバムのアートワークはいつもカートゥーンで、それが自分にとって誠実であるってことなんだ。
──エド・スティードは、アルバムを聴いてからジャケットを描いたんですか?
ジョシュ・ティルマン:そうだよ。どこかに立ち小便している骸骨を入れてほしいってことだけはリクエストしたけど(笑)、それ以外は全部彼のアイデアだね。
──個人的にはキャス・マコームスというシンガー・ソングライターのアルバムのアートワークを思い出したんですけど、あなたも彼の「Nobody's Nixon」という曲をカバーしていましたよね?
ジョシュ・ティルマン:うん、彼のことは好きなんだ。単純に名曲だし…(エルトン・ジョンの)「Tiny Dancer」とか(イーグルスの)「Desperado」みたいにね。そんなに多くはないけど、ボニー・“プリンス”・ビリーの「I See A Darkness」とかダミアン・ジュラードの「Ohio」みたいに、インディーの世界にもボブ・ディランやニール・ヤングの曲に匹敵するような名曲があって、僕にとってはそういう曲だったんだ。
──そういえば、前作『I Love You, Honeybear』に影響を与えたアーティストとしてカート・ヴォネガットとモハメド・アリを挙げていましたが、それぞれどのように影響を受けたんですか?
ジョシュ・ティルマン:モハメド・アリは政治的な発言をするし、彼の言葉自体がアートだよね。ある意味ではラップを生み出したとも言えるし、それをすごく簡単にやってのける。『I Love You, Honeybear』の歌詞の多くは男性のエゴというか、自分を強く見せながら、その下に流れている弱さみたいなものについて歌ったものだったからね。
──カート・ヴォネガットは?
ジョシュ・ティルマン:彼の小説って、たとえば90ページとか、3万語ぐらいの本の中にたくさんのことが書かれていて、それって例えば、25語ぐらいで曲を書くようなものだと思うんだ。そういうところが好きだね。
──一番好きな小説は?
ジョシュ・ティルマン:あまり知られていないけど、『スラップスティック』かな。基本的には死んだ姉と恋におちる話なんだけど、とても美しくて悲しいんだ。肉親のように自分のことを理解してくれる人はいないというか…彼の姉も亡くなっていて、その後に書かれた本なんだけどね。
──ところで、今回はギタリストとしてシンガー・ソングライターのデヴィッド・ヴァンダーヴェルドが帯同していますが、彼とはどうやって知り合ったのですか?
ジョシュ・ティルマン:それも自然な流れで…彼がロサンゼルスに引っ越してきて、ギグをやりたがってたんだ。僕は彼のソロ作品のファンだったから、彼から一緒にやりたいと言われた時は驚いたよ。今でも変な感じがするよね。デヴィッド・ヴァンダーヴェルドがこんなことをやってるなんてさ。
──でも、それってあなたがダミアンと一緒にやっていたようなものなのかもしれませんね。
ジョシュ・ティルマン:その通りだね。
──そういえば、すでに次回作のミックスをしているそうですが、どんな作品になりそうですか?
ジョシュ・ティルマン:いや、帰国してから2~3週間で終わらせるつもりだけど、もう既に曲は書き上がってるんだ。メタルだよ。
──本当ですか(笑)?
ジョシュ・ティルマン:ここに入ってるよ(と言ってスマホで再生する)。
──全然メタルじゃないですね(笑)。ちなみにタイトルは?
ジョシュ・ティルマン:『Total Bummer(完全な駄作)』(笑)。良いタイトルでしょ?
『ピュア・コメディ』
2017年4月26日発売4.26 ON SALE
OTCD-6098 ¥2,300+税
※解説/歌詞/対訳付、特殊パッケージ仕様、日本盤のみボーナス・ディスク付
1.Pure Comedy / ピュア・コメディ
2.Total Entertainment Forever / トータル・エンターテインメント・フォーエヴァー
3.Things It Would Have Been Helpful to Know Before the Revolution / シングス・イット・ウッド・ハヴ・ビーン・ヘルプフル・トゥ・ノウ・ビフォア・ザ・レヴォリューション
4.Ballad of the Dying Man / バラッド・オブ・ザ・ダイイング・マン
5.Birdie / バーディー
6.Leaving LA / リーヴィング・LA
7.A Bigger Paper Bag / ア・ビガー・ペーパー・バッグ
8.When the God of Love Returns There'll Be Hell to Pay / ホェン・ザ・ゴッド・オブ・ラヴ・リターンズ・ゼアル・ビー・ヘル・トゥ・ペイ
9.Smoochie / スムーチー
10.Two Wildly Different Perspectives / トゥー・ワイルドリー・ディファレント・パースペクティヴ
11.The Memo / ザ・メモ
12.So I'm Growing Old on Magic Mountain / ソー・アイム・グロウイング・オールド・オン・マジック・マウンテン
13.In Twenty Years or So / イン・トゥエンティー・イヤーズ・オア・ソー
(日本盤ボーナス・ディスク)
1.Real Love Baby / リアル・ラヴ・ベイビー
ムック『Folk Roots, New Routes フォークのルーツへ、新しいルートで』
監修:清水祐也(Monchicon!)

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