取材:土屋京輔 撮影:MIKIO ARIGA

不幸と感じるか、幸せと感じるか、決め
るのは心だと思うんですね

前作から1年半振りですが、すごく早い気がしますね。

ですよね? だから、もう当分作らないですね(笑)。バンド時代から、ほぼそれぐらいのペースで出していたので、それが当たり前になっちゃってるんだけど、もうちょっと遊びたいなってところもありますし。例えば、ユニットを組んだりね。それと次に出すアルバムのことも考えてるんですよ。また分かりやすい曲でまとまったものにするのがいいのか、もしくは地獄絵図みたいなものの方がいいのか(笑)。今回の『VOLT』にはすごく達成感があるので、どういうふうに自分のサウンドを展開していくべきなのか、慎重になっているところなんです。

だからこそ、吉井和哉名義以外のさまざまな可能性を試したい気持ちも出てくると。

そうですね。カバーアルバムを出すのもいいし、お蔵入りになっている曲をボーナスディスクとしたベスト盤を出すのもいいし。今までの自分を一回、整理するのもありかなと思うので。

前作のアルバム『Hummingbird In Forest of Space』では、妥協のないスタンスで臨んだという話がありましたが、その思いは今も変わらずに継続されているわけですよね?

自分の新しい作曲やサウンドスタイルとか、それまでやってなかったものを作品にしたことで、見えてきた面もあるんですよ。その上で、今回は吉井和哉の持つ力が瞬発的に出るようなシンプルなものを作ってみたいなぁと。曲ができた時は、これでいいのかなって思ったんですね、あまりにシンプルすぎて。そのうち、レコーディングのために赴いたアメリカで歌詞を書いたんですけど、やっぱりシンプルな楽曲は言葉が命なんだと改めて感じました。

それは言うなれば基本的なことだと思いますが、このタイミングでなぜそう感じたのかが不思議ですね。

やっぱり、変わった歌詞を書くのがスタート地点だったので、吉井和哉は。当時は80年代の終わりでしたけど、その頃の一般的な日本の歌詞は今とは非常に違ってたんですよね。それはそれでいいんでしょうけど、自分にはそういう歌詞は書けない、書きたくなかった。そういう中で始まって、メッセージ性の強いものもあったし、下ネタ満載のものもあって。その後の紆余曲折を経て、今回はただのシンプルというより、年齢に伴った重さみたいなものが出ているのかなと思うんですよ。明らかに経験しないと出てこない言葉というかね。綺麗事になってちゃマズいわけじゃないですか。そこに感情移入して、本当に伝えたいと思って書くのと、伝えてるっぽく書こうみたいなものとは違うわけで。自分に自信がない時は、伝えてるっぽいことを書いてしまったりもしたと思うし。もっと言ったら、1音1音、1文字1文字、丹精を込めないといけないんだっていうのも分かりました。

それが最も顕著に表れたと思う曲を挙げるなら?

まぁ、『魔法使いジェニー』は結構言葉遊びをしちゃってますけど、『ONE DAY』『またチャンダラ』『ヘヴンリー』…全部そうですね。『ビルマニア』でも、ビルのマニアの説明は一切していないと思うんですね。ただ、それはサウンドで説明できるし、夜のビル群が風景として浮かんでくるはずだしね。でも、歌詞はちょっといい言葉みたいな感じじゃないですか、相田みつをさんみたいな(笑)。それが書けたのもうれしかったですね。

なるほど。つまり、その人生の教訓、指針的なものにしても、奇をてらったものを狙うのではなく、自分の中から自然に生まれてきたものとして綴られたわけですね。

はい。“「流れるままに」最後は絶対そうしよう”という一節がありますけど、ここは“今はもがいていいんだ”ってことを意味しているはずだし、そういう言葉の並べ方で表情って出てくるんですよ。そんな新しい自分の切り口は見えてきました。“流れるままに”と“絶対そうしよう”というのは、まったく逆の言葉なんですけど、すごく自分的には気に入ってる言葉なんですね。とにかく、最後は絶対に流れるままにしなさいというか、そうならざるを得ないよと。この地球上に生きてて、本当ちっぽけですからね、人間は。自分がそうしたくても、逆らえないところもある。でも、それは与えられたものだし、そこで不幸と思って生きる人生も、幸せと思って生きる人生も、決めるのは心なんじゃないかと。

それを自身がどう捉えるのか、ですね。吉井さんのその視点はどこから生まれたものなのですか?

おばあちゃんから教わりました(笑)。いや、自分はついこの間まで母親のことが嫌いだったんですよ。具体的に言うと、6歳から。もちろん、心の中では好きに決まってるんですよ。そういうトラウマみたいなものを持ってる人って、変な音楽を作ったり、変な絵を描いたりすると思うんですよね。自分も40歳を過ぎて母親と衝突した時期があって…一昨年ぐらいかな。それによって自分の中でモヤモヤが晴れたんですよ。何か、そういう部分でもひとつ成長したんだと思う。成長というのかよく分からないけど、音楽と関係のない人生の中で出てくる言葉ってあるじゃないですか。それだと思うんですけどね。

「ビルマニア」は先行シングルですし、アルバムの1曲目でもあって、今回の制作過程を象徴するんでしょうね。

そう。僕みたいな世代で、ある程度、大人として目標や夢を達成して、"この後、どうしよう?"みたいに考えている人もいると思うんですよ。そういう人に“もう一回上京しようぜ!”みたいな。そういう気持ちはありましたね。自分もさっき言った母親との和解によって、そういった気持ちが芽生えたのかもしれないし。ミュージシャンは歌える限り引退はないけど、年を重ねるごとにシビアな部分も出てきますし、逆に与えられるものもある。今、自分はそれを楽しんでやってますけどね。やり続けることはホントにすごいことだって、最近よく分かりますよ。

続く「フロリダ」には、ブルースの大家、B.B.キングが登場する一節がありますが、ここにも「ビルマニア」の世界観に通じるところがあると思いますし、今回の歌詞は全般的に聴き手の背中を押すような内容ですよね。

うん、本当に“VOLT”ってタイトル通りの歌詞だと思います。『ノーパン』にしても"我が道を行くぜ"みたいな歌だし。『ウォーキングマン』だって、セックスがやりたくてしょうがない、どうしようもない男なんだけど(笑)、男である限り歩き続けなければいけないっていう。

でも、「ノーパン」には驚きました。

そこをエロいと感じるあなたはどうなのよって問いかけでもあるんだけど(笑)。これはね、実はTHE YELLOW MONKEYが活動を休止して、すぐに書いてた歌詞なんですよ。だから、"右に倣え左に倣えしてきたなぁ、これからは真ん中でいくんだ"みたいな。すごく、都会が嫌だった時期なんですね。それをあえて今回のアルバムに入れてるところが面白いんですけど、都会で楽しそうにしている人とか、欲望のままに立っている建物とかに嫌気が差している、汚い街だなぁなんて。だから、ちょっと古い日本家屋が出てくるような曲にしたかったし。

ええ、郷愁的なセピア色ですね。8ミリフィルムが回る部屋でかかっている曲のような印象がありますよ。

小津安二郎(映画監督)のような(笑)。いつかやりたいなって寝かせておいたんですよ。歌詞はわりと書き溜めてあるんですけど、そこから曲を付けることはしたことがなかったんですね。そこで今回はちょっとやってみようと。ストックしてあるものはいろいろありますよ。『自○.com』とか強烈な歌詞ですからね。初めて言っちゃったけど(笑)

いずれ何らかの形で出てくるのを楽しみにしています(笑)。今回の収録曲は意外にもレコーディング直近というより、以前に書かれていたものも少なくないんですね。

『SNOW』も、アルバム『39108』のツアー中に作ったものですね。『魔法使いジェニー』はYOSHII LOVINSON名義で出したアルバム『at the BLACK HOLE』の時の曲。ただ、『ルビー』はデモテープ録りの最終日にサビだけできていたものがあって、即興で仕上げた曲ですね。以前は満を持して作ろうって気持ちがすごく強かったんですけど、今はいつでも作れる。明日作ったから正解とか、明後日作ったから正解じゃないとか、そういうものじゃないんですよね。

最後に自分のブルースとして歌えればい
いと思うんですよ

ただ、もうひとつ興味深いのは、ソロの初期作品を振り返る際に、吉井さんはよく“落ちていた”といった発言をしますよね。つまり、今回のアルバムにようやく収められた楽曲は、落ち着いていない自分だったら、引っ張り上げられていた曲なのかもしれないわけでしょう?

本当そう。『at the BLACK HOLE』はあんなに暗い曲の集まりですけど、当時のデモの中には『魔法使いジェニー』もあったし、『くちびるモーション』(PUFFYに提供した楽曲)もパーツであったし、『39108』に入ってる『I WANT YOU I NEED YOU』のような元気のいいものはいっぱいあったんですよ。でも、やりたくなかった。気持ち次第なんですよ。当時はゴミだと思っていたものがゴミではないわけで。だから、捨てられないですし。今は逆にゴミみたいなものを、すごく、ピカピカにするのが楽しいですね。そういう作業の中から、ふと新しく生まれる曲もあるでしょうし。『フロリダ』なんかはそうじゃないかな。

『VOLT』を耳にした際、確実に世界が広がった気がしたんですね。ただ、その捉え方が必ずしも正しくないことも、今までの話で分かりました。

キャパシティが広がったんじゃないですかね。好きではなかったようなアルバムも今は好きだったりするし、もはやかわいいし。そう考えると、どんな曲でもできるよね。

全てを通して言えるのは“愛”ということですよね。

まぁ、おばあちゃん子でしたからねって、それはもういい?(笑) まぁ、全てを愛せるようになってきたんですね、人のことも自分のことも。最近の話ですけど、『ビルマニア』を出した時に自分のサイトのBBSとかにすごく感想が書かれていて、本当にうれしかったんですよ。“待ってました”“帰ってきましたね”みたいな。やっぱり愛を持って接しないとダメだろうとも思ったし。バンド解散からここに至るまで紆余曲折がありましたし、これからもいろいろあると思うんですよ。とてつもなく悲しいことも起こるかもしれない。でも、自分が生きている限りは何とか立ち向かっていきたいなって。多少、落ち込む時間が1~2年はあるかもしれないけど(笑)、自分は音楽しか能がないので、やり続けようって。そして、最後に自分のブルースとして歌えればいいなと思うんですよ。
吉井和哉 プロフィール

ヨシイカズヤ:88年にTHE YELLOW MONKEYを結成し、92年にメジャーデビュー。01年にバンドが活動休止した後、03年にYOSHII LOVINSONとしてソロデビュー。04年にTHE YELLOW MONKEYが解散。05年6月より初のソロツアー『AT the WHITE ROOM』を実施。06年1月、吉井和哉に名義を変更し、シングル「BEAUTIFUL」で活動を再スタート。14年11月、自身のルーツ・ミュージックをカバーした、初のカバーアルバム『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』を発表。15年3月、4年振りとなる7thアルバム『STARLIGHT』を発表した。吉井和哉 オフィシャルHP(アーティスト)
吉井和哉 オフィシャルFacebook
吉井和哉 オフィシャルYouTube
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