【熊木杏里】
取材:石田博嗣
恋愛の歌になるとさらけ出した感がある
「君の名前」は聴き入ってしまって、なかなか質問が考えられなかったです(笑)。でも、NHK番組『ワンダー×ワンダー』のエンディングテーマとして書き下ろした曲なんですよね。
ありがとうございます(笑)。イメージをもらって作ったんですけど、番組に完全に寄り添うわけにもいかないので、自分なりにいろんな解釈をして作った曲の中で、この曲が気に入ってもらえたんです。
どんなイメージをもらったのですか?
温かい曲…番組を観終わった時に、美術館とか博物館を出た時みたいな気持ちになる曲というのは言われましたね。もしくは、想像の翼を広げられるような曲。美術館や博物館に行くとクリエイティブな気持ちになるじゃないですか。そんな番組なので。
そういう感じはありますね。あと、別れた後でも好きになった人の名前が言霊を持ってることにも気付かされました。
そうなんですよ。名前って一種の言霊パワーですよね。しかも、文字情報として認識される…全然違うものなのに、食べ物屋の看板とかで見かけると“あっ!”と思ってしまう(笑)。でも、こうやって名前にとらわれてしまうのは、自分だけじゃないと思うんですよ。だから、とっかかりは自分のことなんだけど、だんだんいろんな人のそういう時の気持ちが自分の中で混ざり合って、言葉も素直に出てきたという感じですね。
歌詞も相手に語りかけるようなものになってますよね。
力強い独り言みたいな感じになってますよね。語りかけてはいるんだけど、実体はそこにはいなくて…でも、自分の気持ちを伝えてるみたいな。だから、ほんわりとやさしく語りかける感じじゃなくて、少し強めの声で歌ってたりするんですよ。凛とした強い自分でありたかったというか。
出だしが“もう泣かないと 決めた”ですもんね。だから、失恋を引きづってる印象はあるけど、前向きに感じられます。
終わりは終わりでしたからね。なのに、名前だけが…って感じで(笑)。そのちょうどいい前向き加減で、こういう歌詞になったんだと思います。決してネガティブなものじゃないし、“ありがとう”的な、“私も頑張るよ”みたいな不思議な立ち位置なんですよね。
曲を作ってる時から、そんな歌詞を書こうと?
一緒に出てきましたね。曲を作る前の準備段階の時から気持ちが高まっていたので、すごく自然に出てきました。自分でも泣いてしまうぐらいに(笑)
それだけ自分が出ている?
完全に自分です。恐ろしい出来事だったんで、これは曲にしないとって(笑)。恋愛の歌ってのは“いち熊木杏里”みたいなものだから自分が出ますよね。恋愛の歌になると、さらけ出した感があるのはなぜなんでしょうね(笑)
前回のアルバムの時もおっしゃってましたが、さらけ出すことができるようになったということですね。
そうですね。ライヴでラブソングを歌ってる時がしっくりときていて、そういう歌がもっと歌えたらいいのにってのを、どこかで思ってたんでしょうね。煮え切らないものがあるのなら出してしまおうって。そういう時期なのかもしれない。で、そのもやもやを誰かと連帯するのもいいなって。作ってるのは自分なんですけど、自分もこういう気持ちに共感して、“そうなんだよな”と思っているひとりなんだって(笑)。だから、誰の歌にでもなり得る曲だと思います。
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