取材:石田博嗣

今まで陰陽座を応援してくれていた人は
絶対に満足していただける

9枚目のアルバム『金剛九尾』が完成しましたが、今作の構想も随分前からあったのですか?

瞬火
前々作『魔王戴天』を作っている前後にはありましたね。もっと極端に言えば、日本の妖怪をテーマとするのなら、真っ先に手を付けたい“九尾の狐”という素晴らしい題材を、このバンドを結成した時に、9枚目のアルバムでやると決めてたんですよ。だから、9枚もアルバムが出せるかどうかの保証もない中、よく今まで我慢できたなって(笑)。

どんな楽曲を入れるかも早くから決めていたのですか?

瞬火
おぼろげにありましたね。“九尾の狐”をテーマにした曲しか入っていないコンセプトアルバムというわけではないので、他の曲でどのように彩っていくかは何年も前からイメージしていて…実際、前作の『魑魅魍魎』の制作期間の中で、“これは次回作用だな”って自分の中で振り分けられていたマテリアルもあったので、今回のアルバムの制作期間に入った時には、ほぼ基盤は出来上がってました。

ゲームソフト『犬神家の一族』のオープニングの「相剋」とエンディングの「慟哭」というゲームのために書き下ろされたシングル曲がアルバムに入っているわけですが、それも計算されていたと?

瞬火
そうですね。「相剋」と「慟哭」は『犬神家の一族』というゲームソフトのための書き下ろし楽曲ですが、そのオファーを受けた時にはそれが今回のアルバムに入ることは想定内だったので、『犬神家の一族』の世界観にバッチリ合わせながらも、『金剛九尾』というアルバムの中でも機能することは当然考慮して作りました。だから、行きがかり上、事前に出ていたシングルだからなんとなく入っているわけではなく、『金剛九尾』の流れを作るひとつのファクターになってるんですよ。

そんな今回のコンセプトは、かなり前からメンバーにも伝えていたのですか?

瞬火
実は13作目までタイトルは決めてあるんですけど(笑)、あんまり先のことを言い過ぎても目の前のことに集中できなくなるので、ひとつのアルバムを作り終わって、そのツアーも終わって、ひと呼吸置いてから、“さぁ、次はこれですよ”って企画書を渡すんですよ。

企画書っすか!(笑)

瞬火
ええ(笑)。アルバムのタイトルと由来、全体的なイメージとコンセプト、収録を想定している楽曲が決まってるなら、それも一緒に。
黒猫
9枚目のアルバムは“九尾の狐”をモチーフにしたいっていうのは前から聞かされていたので、いろいろ自分で想像していたんですけど、今回の企画書をもらったら、“早く作りたい!”ってワクワクしましたね。曲のデモを聴いた時も…メンバーみんなと一緒に聴いたんですけど、瞬火さんはデモも完璧に作ってくるので、デモなのに鳥肌が立って泣きそうになりました(笑)。みんなも“カッコ良い…!”って言葉に出ないぐらいに感動してましたよ。

そんな今作の1曲目の「貘」ですが、インストでもないし、ガツンとくるヘヴィチューンでもなく、珍しくミディアムなナンバーがオープニングを飾ってますよね。

瞬火
ひと言では表現できない、いろんな表情がありながら、疾走感も十分ある楽曲ですね。このアルバムの冒頭はこれだっていう確信がありました。拳で叩き付けるような衝撃というよりは、やさしく包まれているかのようで、ふと見るとものすごいスピードでどこかを飛んでいるような、なんか不思議な空気感と飛翔感があるというか。で、そこに陰陽座の強い理念を歌詞に組み込んで、このアルバムの世界へといざなう役割を果たしているわけです。

だから、曲間なく、先行シングルでもある、2曲目の「蒼き独眼」につながるわけですね。

瞬火
そうです。いざなわれたまま突入するという。「蒼き独眼」はタイトルからもご想像いただける通り、独眼竜政宗をモチーフとしているんですけど、伊達政宗のとある境遇の中での心境と陰陽座の意志とがシンクロする部分があって、伊達政宗という存在を通して、陰陽座の意志までも象徴しているんですよ。サウンド的にもリフで押しながら、歌が突き抜けるっていうのは、陰陽座の必殺技のひとつという感じなので、アルバムをリードしているし、先行シングルとして機能していると思いますね。

やはり注目は“九尾の狐”をテーマにした組曲「九尾」なのですが、最初から大作にしようと?

瞬火
大作にしようと意気込んだというよりは、“九尾の狐”という妖怪について、さまざまな成り立ちであるとか、その顛末を語るのに最低でも三部の構成が必要だったという感じですね。陰陽座には「黒塚」と「義経」という組曲があるんですけど、それらとは聴いた後の感じが少し違うと思います。なぜならば、人間のやり切れない、切ない生き様とか、妖怪は妖怪でも哀しさや切なさの漂うお話ではなくて、今回は邪悪で妖艶な妖怪と人間との、いろんな意味での壮絶で凄絶な戦いを描いているので、組曲としての全体の印象は、歌詞の面も含めて斬新に仕上がったという手応えがありますね。何にせよ、九尾の狐にまつわる物語として、すごくいい流れの三部作ができたと思います。

今回もかなり充実した作品が出来上がったようですね。

黒猫
アルバムを作るたびに最高傑作が更新されていくというか、最新作が最高傑作だと思って出せないとダメだと思っているんですけど、9枚目に至っても自信を持って出せるものが出来上がりましたね。感無量です!
瞬火
軸のブレのなさとか、自分たちの進歩の度合いであるとか、音楽性の振り幅の成長とか、これまで1枚1枚順調に右肩上がりで進化してきた上で、この9作目を向えられたっていうことで充実感が強いですね。今まで陰陽座を応援してくれていた人はもちろん、そうじゃない人まで絶対に満足していただけると思います。…今、こうやって落ち着いてしゃべってますけど、結構興奮してるんですよ(笑)。早く聴いてほしくて仕方ないっていうか。ほんとに、いいアルバムができたと思ってます。

個人的にも、このアルバムが一番好きですよ。それは今までのアルバムがどうのっていうことではなくて、すごく音のバランスがいいというか、感触がいいんですよね。

瞬火
ありがとうございます。今回、音のバランスというところで、気が触れているんじゃないかっていうレベルで突き詰めたんで、そこを感じていただけているのはうれしいですね。
陰陽座 プロフィール

オンミョウザ:1999年、大阪にて結成。“妖怪ヘヴィメタル”という惹句を掲げ、人間のあらゆる感情を映す“妖怪”を題材とし、道なき道を切り開く信念を“ヘヴィメタル”の名の下に貫く。正統的ヘヴィメタルを音楽性の基盤としながらも、男女ツインヴォーカルとツインリードギターによる変幻自在な表現により、日本文化に徹底的に拘った唯一無二の世界観を結成時から現在まで淀みなく展開。自主製作で2 枚のアルバムを発表した後、 2001年にシングル「月に叢雲花に風」でメジャーデビュー。以降、精力的な音源制作はもちろん、すでに全都道府県を2 周しているという事実が物語るように、生粋のライヴバンドとしても歩を緩めることなく邁進中。安易な“変化”よりも“進化”と“深化”を信条とし、“上”ではなく“前”に向かって着実に歩み続けることを最大の理念として実行する、極めて希有なバンドである。陰陽座 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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