取材:田中 大

今回のアルバムは、アコギを弾きながら曲を作っていったみたいですけど、ラッパーの方としては結構珍しいですよね。

ギターを始めた理由はいろいろあるんですけど、停電があって音楽が全然聴けないことがあったのが大きな理由なんです。家族がいるし、何か音楽があったらなと。そこでお父さんがギターを弾いたらカッコ良いなあって(笑)。それでシングル『手を出すな!』をリリースした日に、アコギを買ったんです。それを弾いているうちに、今までいろんなアーティストと一緒にやりながら作っていたことを、自分ひとりでも完結できるんだなと思ったんですよね。

アコギって部屋で気軽に爪弾くようなこともできる楽器なので、それで作ったこともあってか、今回のアルバムはすごくパーソナルなテーマの曲がいろいろ生まれてますよね。

詞に関しては誰にでも書ける歌っていうよりも、僕の通ってきたものがそのまま出てます。写真のアルバムってその人の記録ですけど、今回の僕のアルバムもそういうものですね。

例えば「baby in car」や「誕生日ありがとう」は、結婚やお子さんが誕生した体験が反映されている曲ですけど、ラッパーから出てくるテーマとして新鮮でした。

ラッパーで父親になっている世代が、まだ少ないのも理由のひとつでしょう。今後はいろいろ出てくるんじゃないですかね。今回のいろんな曲が上手くリスナーにも伝わると良いんですが(笑)。久しぶりのアルバムなもんで、“こんな感じでどうでしょうか?”という気持ちと、やっとリリースできるうれしさでいっぱいです。

「誕生日ありがとう」は、お子さんへの呼びかけの曲ですが。

完璧に親ばかソング(笑)。子供の声が入ってますけど、これは生まれて10分くらいの僕の娘の声です。この曲を一緒に作った椎名純平くんは、僕が尊敬するお父さんミュージシャン。僕も彼みたいな家庭の中の音楽人になれたらいいなと思います。

ラブソングも良い曲がいっぱい生まれましたね。「Take it slow」とか「月が綺麗です」とか。「月が綺麗です」の歌詞には、“I Love You”を夏目漱石が“月が綺麗です”と翻訳したという旨の話が出てきますけど、これは本当ですか?

本当の話らしいですよ。夏目漱石が英語の先生だった時、自分の生徒が“I Love You”を“私はあなたを愛しています”と訳したら、“日本人はそんなふうに愛を伝えない。‘月が綺麗です’くらいに訳した方が良いんだ”って言ったらしいです。言わずして語る美学みたいなものが、日本人にはあるじゃないですか。具体的に言葉にせずに伝えることも、我々音楽人のテーマだと思うし。そういう意味でも、上手く着地できた曲だと思います。

あと、メッセージ性の強い曲も聴きどころですね。例えば、「Fight for YA right !!」とか「ガク問ノススメ」とか。

こういう曲をいくつか書いたきっかけとなったのは、『Fight for YA right !!』。これは僕が初めて出た舞台のテーマソングなんです。舞台って自分ではない人間を演じる空間。その体験によって、嘘というか、演技をして表現するのもアリなんだなと思った。だから、こういうメッセージ的な曲は、“GAKU-MCは、こういう人なんですよ”というのをGAKU-MCがやっている曲でもあるのかなとも、ちょっと思います。“演じることによって生まれるリアルさもあるのかな”と思ったところからできていった曲なんですよね。でも、特に意味のないことを言う曲も、僕は大好きなんですけど。

例えば「I hope you like it」とか?

まさに何も言ってない曲ですね(笑)。この曲みたいな感じでライヴをやれるようになったらいいなあと思います。ギターを弾いているのは、Bank Bandの小倉博和さん。この曲をレコーディングして家に帰ったら嫁が産気付き、出産したという。アホな曲ですけど、思い出が籠もった曲になりました。

「手を出すな!」は、やっぱりすごくカッコ良い曲ですね。

このアルバムの中でも、僕の大きなターニングポイントとなった曲ですね。この曲から今回のアルバムが始まったと言っても過言ではない。アップテンポで韻もしっかり踏んでますし、今回の曲の中でも“ラップ!”って感じで歌ってる曲ですね。

桜井和寿さん(Mr.Children)とのコンビネーションも絶好です。

アホみたいに一緒にサッカーをやってきた経験の賜物なのかも(笑)。フェスのステージでも、そういうコンビネーションが発揮されているのを感じることがありますよ。

「世界が今夜終わるなら」は、今回のアルバムタイトル“世界が明日も続くなら”につながる曲だと思うのですが。

“世界が最後”と思うと、人はふたつの行動をとるんじゃないかと僕は思ってて。ひとつは普段大切にしているものをもう一度見直す。もうひとつは人生で足りなかった何かをする。“世界の最後に何をしますか?”っていう質問に対する回答は、その人を如実に表す気がするんです。リスナーの方々が、この問いかけに対してどういう答えをするのか、とても気になります。

このアルバムを振り返って、改めてどんなことを思います?

生活が滲み出ている。昔だったらもう少しカッコ付けたと思うし、生活自体ももっと限定された目線でしたし。歳取っていろんなことが見えるようになったことが出ていますね。今後もいろいろ出会っていくことを、そのまま曲で示していきたいです。

このアルバムと同じ日にタワーレコード限定でナイス橋本さんとヨースケ@HOMEさんとのコラボシングルの「今日からみんなともだち~NO MUSIC, NO LIFE.~」も出ますし、今年はリリースが盛りだくさんですね。

それまでが空きすぎましたからね。次のアルバムがまた7年後になっては困るので(笑)、これからもどんどん作っていけたらいいなあと思ってます。
GAKU-MC プロフィール

90年、ユニット「EAST END」結成。DJ HONDA、DJ KRASH、MUROといったアーティストと共にイベント出演しながらスキルを磨き、92年にファイルレコードよりデビュー。また、ライムスターやメローイエローと「FUNKY GRAMMAR UNIT」を始動させ、ノーティ・バイ・ネイチャーのフロント・アクトを務める。そして94年、市井由理をゲストに迎えた「EAST END+YURI」が誕生。メジャー・デビュー・シングル「DA.YO.NE」は爆発的なヒットを記録し、『Jラップ・ブーム』に一役も二役もかった。続く「MAICCA〜まいっか」「いい感じ」も好セールスを記録し、巧妙なコトバ遊びを散りばめた軽快なヒップホップ・チューンは、お茶の間レベルにも浸透したのだ。また、彼らは日本のヒップホップ界で初めて紅白歌合戦に出場したグループでもある。98年にEAST END+YURIは活動休止となってしまったが、フロントマンであったGAKU-MCはジャズ・バンドと共にライヴ、レコーディングを開始。私小説『僕は僕でだれかじゃない』と連動したシングルで、ソロ・デビューを果たした。00年2月には1stアルバム『word music』をリリース。ここには、生バンドと出会ったことにより、サンプリングとループの世界を飛び超え、なおかつラップ本来のもつ「素直なこころの叫び」を再びモノにしたGAKU-MCがいる。オフィシャルHP
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