取材:高橋美穂

事前に今作のビジョンはありましたか? また、アルバム全体で描こうとしたストーリーがあれば教えてください。

前作『fantasia』が2年半前ってことで、当初はテーマを探してましたね。“第2期スリーピー”と銘打って、何か新しいことに挑戦してみたかったんですけど、何から始めていいのかテーマが全然見つけられなくて。自分自身何が言いたいのか、そもそもsleepy.abとは?って葛藤がありました。ずっとそんな感じで。けど、今思うとテーマを探すこと自体が迷宮に入った要因で、何か自分から自然に出たものに対してリアクションすべきだったなと。去年10月に『アクアリウム』という曲ができて、やっと0が1になりました。そこから一気にイメージが広がりましたね。

リスナーの層がぐっと広がるであろうレーベル移籍のタイミングですが、“より多くの人に届けるために考えた”とか、楽曲作りに影響をもたらした点はありますか?

レコーディング中には移籍の話はまだなかったんで、それほど関係ないと思いますけど、『archive』(活動10年の軌跡を収録したベスト的なアルバム)を経て、自分たちのブレない部分を確認できたので、さらに楽曲に対しての新しいアプローチ(歌や歌詞に対しての各パートのアレンジ、奥行き感)が必要だと思ったし、多くの人に届いてほしいという意味ではまだまだと思ってたので、そこで移籍のタイミングが重なったのはすごく幸運でした。

まず、“北海道の広大でキーンと冷えた空気が思い浮かぶような音像”と称されることが多いと思いますが、自分たちでも意識的に落とし込もうとしているのでしょうか? あと、実際に北海道は好きですか?

意図的にはないと思います。初めて言われた時は僕たち自身、“どういうところが北海道っぽいんだろう?”って。けど、何だかすごくうれしかったんですよ。その北海道のタイム感や空気感を自然に表現できているなら、それってすごくいいなって。北海道って夏が短くて冬が長い、だから春が来た時の感動というか、そういう気候みたいなものは関係してるのかなと思っていたりはします。北海道は好き…というか、しっくりくるんです。ツアーとかでいろんな地域に行って、空港まで戻ると、毎回変わらず新鮮に感動できますね。好きって理由だけでそこにいられるわけではないですが、スタッフ含め周りの方が北海道での制作や活動を理解してくれているのは幸福だなと感じてます。

今作の楽曲には、「アクアリウム」「ダイバー」「さかなになって」と水が絡んだ楽曲が目立つ気がします。魚や水に対してシンパシーを覚える部分があるのかなと。自分たちの楽曲の武器である浮遊感をより明確に楽曲に落とし込むことができるようになったのかな、とも。

『アクアリウム』『さかなになって』が前半にできたので、そこからイメージが始まったってことが関係してるんです。なので、当初は水や海底をイメージしたアルバムになるんだなって、自分のことながら思ってました。魚がいて、水槽があって、部屋があって、外の世界があって、海があって、“あれ? 深海って宇宙みたいだな。くらげがパラシュートに見えるな~”…とか、そんなイメージや妄想(?)やらがパズルのようにハマってどんどん広がっていきました。海の中のパラシュートって、すごくsleepy.abのサウンドの浮遊感みたいなイメージを表わせてると思います。

その一方で、ダークな「ナハト・ムジィク」、アグレッシヴな「flee」など、儚い浮遊感だけじゃない魅力が表れた楽曲も増えていますよね。ライヴの成果なのか、それとsleepy.abで表現したい世界観が広がっているからなのでしょうか?

これは4人の個性やバランス、それによっての個々の役割が自分たちで分かってきたのかなと。新しい世界観というよりは、4人のそれぞれの世界観をミックスダウンして提示できた結果だと感じます。各地のフェスやライヴでのコミュニケーションで、外との関わり方が変わってきたことも関係していると思います。

歌詞に関しては、アルバム全体のテーマはありますか?

普遍性がありながらも日常的なものを目指してます。その中に今回は輪郭というか具体性(名詞など)を入れることによって、背景も生かすことにチャレンジしました。

「メトロノーム」の歌詞が特に印象的で、自己確認と未来への宣言のようでとても素直だなと。

自分たちが音楽活動してきた今までや、これからも札幌にいて制作や活動していくことを歌詞にしたいと思いました。トンネルの向こうに光があって、そこに向かっていくイメージです。その辺を『メトロノーム』ではあえて言い切りました。遠征などが終わって千歳空港から札幌まで帰る道程にピッタリだと思います。

アルバムタイトルの意味は“落下傘部隊”ですが、何処に向かって落下していくイメージですか? 意味が意味だけに、そこには闘志も込められているのでしょうか?

僕らは北海道からツアーに出るんで、道外に向けての上陸作戦というか、やんわり攻撃開始をさせてもらいますよっていう宣戦布告というか(笑)。1曲目の『ダイバー』で空から海へ降下するところから始まる旅のようなイメージです。

最近影響を受けた、もしくは気に入っているバンドやアーティストがいれば教えてください。

あまり僕自体はバンドサウンドは聴かない方なんですが、plentyというバンドはすごくカッコ良かったです。

今後追求したい音楽性や、叶えてみたい夢を教えてください。

道外から札幌にライヴを観に来てもらえるようなアーティストになりたいですね。それと、今までと同じく自分たちらしくどんどん楽曲を作りたいなと思っています。
sleepy.ab プロフィール

札幌の大地が育んだ独自の世界観を持つバンドsleepy.ab(スリーピー)。メンバーは成山剛(vo&g)、山内憲介(g)、田中秀幸(b)、津波秀樹(dr)の4人。接尾語の“ab”が示す通り、“absolute”=抽象的で曖昧な世界がトラックやリリックに浮遊している。成山らが紡ぐ美しく繊細なメロディ、山内の変幻自在の空間プレイ、田中と津波の確かな素養に裏付けされた強靭なボトム、この唯一無二のサウンド・スケープが4人の“absolute”な音世界を既に確立している。

札幌でマイペースに活動しながら、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』をはじめとする数々のフェスにも出演を重ね、彼らの音楽に魅了されたアーティストも少なくない。そんな中、09年11月に<ポニーキャニオン>よりアルバム『paratroop』で遂にメジャー・デビューを果たす。聴いた人の心を掴んで離さないスリーピーワールドは、まるで眠りにつく時のように気持ちがリセットされる感覚に陥るはず。彼らの作品を聴いていると透き通った空気の季節が待ち遠しくなる——そんな音楽を奏でている彼らは他のバンドとは一線を画している。オフィシャルHP
公式サイト(アーティスト)

OKMusic編集部

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