【Superfly】穏やかな心境の中で歌い
たかったんです

定評のあるオーセンティックなロックサウンドと絶唱は、真価が問われる3枚目のアルバム『Mind Travel』で再び大きな飛躍を遂げた。今や日本を代表する若手女性シンガーとなった越智志帆が、本作で表現した純粋な思いを語る。
取材:土屋京輔

表現したかったことを心のままに思いを
かたちにできたアルバム

『Mind Travel』が完成した今、どんなお気持ちですか?

仕上がった時はホッとしたんですけど、制作の後半になるにつれて“あぁ、終わっちゃうのかぁ”って。寂しいというよりは、自分が乗ってきてるのが分かったので(笑)、作るのを止めたくなかった…初めてですね、そういう気持ちは。自分のスタイルもまだまだ変化していくと思うんですけど、思いをかたちにする方法のようなものが掴めてきてるのかなって。『Fly To The Moon』『Ah』『Rollin’ Days』は特にそう。主に作詞ですけど、かたちになった時に、もっともっと次にいこうって、すごく前向きになっているのが感じ取れたんですね。言いたかったこと、表現したかったことが、心のままに書けた。目の前に映る景色をそのまま写真としてパシャって撮れる、あの感じでしょうか。

同じ景色を撮るにしても、プロとアマチュアでは全然違う写真になりますよね。つまり、ただ切り取ればいいだけではない。

ええ。8割は書けたけど、あとの2割がもうちょっと、みたいな時もあるし。例えば連写してて、その中の1枚が奇跡的に自分が見た景色に近いぞみたいな、それにちょっと似てるのかもしれない。作詞はデビュー前に始めたぐらいだったので、スタートが遅い分(笑)、ようやく気付くこともあって。もちろん、もっともっと器用にやっていけたらなと思うんですけどね。

ただ、今回の歌詞を眺めてみて思ったのは、この人はどういうインプットをしてきたのだろうかということだったんですよ。

どうだろう…そんなに意識して映画を観るようなこともないんですね。それよりも感性というか、感動できる心。そこだけは守らないといけないなという気持ちが強くて。もともと小さなことでもオーバーに感動したりするんです(笑)。だから、身の回りで起こるいろんな出来事を逃さないようにしてる。みんなそうだと思うんですけど、何で人は人を愛するんだろうとか、そういうのをいちいち深く考えようとしてますね。

でも、言葉の選び方などに独特なものも感じるんですよ。

初めて言われました(笑)。以前は音で音楽を楽しんでたんです。だから、“この歌詞に救われました”といった体験もなくて。最近はあるんですけど、その意味では作詞で誰かに影響されたということもないんですよね。今頃になって、もうちょっと歌詞の内容にも踏み込んでおけば良かったなって思いますけど(笑)。ただ、日本語ってすごく硬かったり、リズムが取りづらかったりしますよね。でも、桑田佳祐さんの歌詞はものすごく耳に馴染んで流れてくる。あの音の使い方はすごいなぁといつも思いながら、読んだり、歌ったりしてますね。

歌詞の綴り方でも、自分のかたちを掴んだ感覚はないですか?

多分、それが心に感じているままに書けたということにつながってるんじゃないかなぁ。2ndアルバムぐらいから歌詞を書く前に、音からいろんな景色がわりと明確に見えるようになってきたんですよ。以前は空間を客観的に見ている感じだったんですけど、今回は自分がそこに入っているような気がしたんですよね。『Fly To The Moon』もほんとに自分が夜、ビルの横ぐらいにいて、手を挙げている絵が見えた…というよりも、自分が実際にそうやっている感覚だったんです。そういう変化はあった気がします。『Rollin’ Days』は日本武道館がパッと思い浮かんだんですよ。九段下の駅から坂を上りながら、武道館に行くまでの道がすごく好きなんです。春なら桜が満開になってて、いつもすごく贅沢だなと思いながら歩くんですけど、そこを想像しながら。ライヴって仕事とかを全て忘れて楽しめる、ご褒美だと思うんですよ。この曲では、悩んだり、悔やんだりしてる毎日だけど、そのご褒美のような一瞬の輝き、喜びのために生きてるんだって歌詞を書きたかったので、その映像がバーッと広がったんですね。実際、そこでは私が歩いてました(笑)

それは面白いですね。むしろ、今はご自身がそういうご褒美となる場を与える役割になっているわけじゃないですか。

そうでありたいです(笑)。でも、何でそういう絵が思い浮かんだのかよく分からないんですけど、武道館で演奏しているのも自分っていう映像だったんですよ。私にとっては自分がやるライヴは生き甲斐、喜びだったりもする…だから、これもご褒美に近いのかもしれないですね。そこに苦悩はあるけど、生きてるなぁと思う瞬間が何度もあって。

自分の中から生まれながら、意外に思うようなものは?

どうだろう。『悪夢とロックンロール』は妄想というか、好き勝手に歌ってるだけなんですけど、これもしっかりと絵が見えましたね。ロックスター…まぁ、ミック・ジャガーと恋をして(笑)。一度はアイドルと恋に落ちたいってみんな思うじゃないですか。その感覚なんですけど、普通の女の子だったのに、なぜか恋人に抜擢され(笑)、毛皮のコートを着て、彼の隣で歩いている。周りのグルーピーの子たちからは“ずるい!”って羨ましがられるんですけど、それも心地良くて(笑)

勝利者の感覚ですね(笑)。

そうですね(笑)。そして、The Rolling Stonesがセッションをするスタジオに行くんですけど、赤い絨毯が敷かれてて、ランプとかもいっぱい飾ってある。そこでメンバーが円になって演奏してる様子を私は後ろから得意気に見てるんですけど、不意にすっごくセクシーな女の人がミックを奪って去っていく。それが夢から覚めた瞬間っていう話なんですけど(笑)、そういうストーリーが全部リアルにバーッと出てきたんですよ。

身近にありそうな気もしてきますよね(笑)。一方で、曲調的にはLed Zeppelinを思い起こさせる「Deep-sea Fish Orchestra」は、現実にはなさそうな世界を感じました。

これはダイビングをした時の経験なんですよ(笑)。まずシュノーケリングをした時に、空から地上を眺めているような感じがしたんですね。魚が鳥に見えたり、珊瑚が岩に見えたり。海の中ってこういう感じなんだなって、最初は何か面白いなと思ったんですけど、ダイビングでもっともっと深いところに潜っていったら、同じ地球に住んでいるのに全然知らない世界がここにあるんだなぁって、すごく神秘的なものに感動したんですよ。インストラクターに“ここに何百億匹って魚がいるよ”ってプレート(水中で使用できるホワイトボード)を見せられて、岩の影に行ってみたら、ものすごくたくさんの小さな魚が、光に照らされてブワーッと存在している光景を目にして。その瞬間、鳥肌がブワーッと立ったんですよ! そこで“すみません、海の中にお邪魔させてもらってます”っていう新鮮な感覚があって。お魚によってキャラクターがあるのを知ったのも面白かったですね。無邪気に寄ってくる魚もいれば、2メートルぐらい先から私を睨んでいる魚もいて(笑)。いろんなドラマがあるんだなぁって。でも、実は地上でもそうなんですよね。人間はビルを建てたり、排気ガスをブンブン出したりしてるけど、自然の中にお邪魔してるだけでしかない。地上でも自分が想像する以上にたくさんの命が存在する。そういうのをもっと見たいな、触れたいなとも感じましたね。

素晴らしい体験でしたね。やや話が戻ってしまいますが、3作目は作り手の本領が発揮されるといった言われ方もよくされますよね。そういったことを意識されました?

制作が始まった頃は、少し肩に力が入ってたような気がします。1枚目も2枚目も時期的にはSuperfly自体が新鮮に感じられたと思うんですけど、3枚目ともなれば、この人たちは何を言いたいんだろうとか、音楽で何をしていきたいんだろうって、聴き手もシビアになると思ったので。だから、歌うテーマにもある程度の深みがないとダメだなと吟味したり、オリジナリティーがないといけないなと思ったり。その意味では、頑張って厳しめに作ったつもりではあるんですけどね。

OKMusic編集部

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