【矢沢洋子】羅針盤をハートに持って

未来を自分で決めましょう!

1stアルバム『YOKO YAZAWA』から約9カ月、待望の新作は映画『少女たちの羅針盤』の主題歌! 映画を観て、監督と何度も話し合って歌詞を書いたという「羅針盤」。もちろん、そこには彼女の想いも注ぎ込まれている。
取材:石田博嗣

配信シングルとして「羅針盤」が発表されましたが、映画『少女たちの羅針盤』の主題歌ということで、やはり映画のために書き下ろされた曲になるのですか?

そうなんです。お話をいただいた時は、曲も歌詞も何も作ってない状態の中、映画自体はほとんど出来上がっていたんですよ。それを観せてもらったので、作る時に入り込みやすかったですね。監督と話し合う機会も設けていただいて、自分が映画を観て沸いたイメージを伝えて、監督からも“言葉じゃなくてもいいので、そのイメージにしてもらえると”と言っていただいて…そういう話し合う機会を何度か持ちました。なので、逆に映画を全部知りすぎているからこそミスできないっていうプレッシャーがあったり(笑)。結果的には練って練って作り込んだ歌詞になりましたね。

映画を観て沸いたイメージはどういうものだったのですか?

高校生の女の子4人が劇団を立ち上げるっていう柱を中心に展開するお話で、その後、事件が起きて、犯人が最後まで分からないサスペンスでもあります。でも、やっぱり思ったのが、少女たちが持っている葛藤で…劇団のことだけじゃなくて、普段の私生活の中での葛藤も描かれていて、“私もあったな”と思ったり(笑)。そういうところで共感できたっていうのもありますね。映画自体はサスペンスだから、決してハッピーな内容ではないのですが、監督がおっしゃっていたのは、未来や将来に対してある葛藤の中での希望を大切にしてほしいと。私もそこの部分は入れたいと強く思ったので、それを歌詞にした…メロディーがわりとスローで少し重めなので、そこにどうやって希望を入れればいいのかって試行錯誤しましたけど。

曲調は最初からバラードにしようと?

この映画にはバラードだなっていうのは思いました。時期的に次のアルバムの制作に取りかかっている段階だったので…スタッフと“この曲いいね。これで歌詞を書いてみたいな”って曲を選んでいる時に今回のお話をいただいたんで、“あっ、ぴったりの曲があったよね”って曲を選んでから歌詞を書いた感じです。

歌詞はどんなものにしたいと思ってました?

歌詞に関しては、具体的な言葉を使うのをあえて避けたんですよ。それはなぜかって言ったら、映画の曲っていうことが頭にあったので、ストーリーの邪魔をしないようにと思って。だけど、言いたいことは言いたいしって(笑)。その“言いたいこと”というのが、さっきも言った“葛藤”と“希望”です。だから、わりと比喩的な表現をしたんですけど、掴みどころがないまま何も分からずに終わってしまうといけないから、メロディーに乗った時に感じ取ってもらえるような強さも歌詞にしました。

“羅針盤”はキーワードとして使おうと思っていたのですか?

最初は使うべきか悩みました。でも、歌詞を書いている時にすごく思ったのは、歌詞の中では“右手には羅針盤”って表現していて、手に持っているイメージなのですが、私が考える羅針盤っていうのはかたちがあるものじゃないんです。誰かに“こっちに進んだ方がいいよ”って言われた時も、最終的にどうするかを決めるのは自分。“右がいいよ”っていうアドバイスをもらって右に進むって決めるのも、真逆の左に進むって決めるのも結局自分なわけだから、羅針盤は自分自身なんです。だけど、やっぱり不安だったり、未来に“絶対”なんてないから人は悩んでしまう。最終的に自分を信じることができなければ、右にも左にも、前にも後にも、どこへも行けず、がんじがらめになっちゃうと思う。でも、自分だけの羅針盤…そこがしっかりと定まっていれば、“私はこうする!”って決断できるから、“羅針盤をハートに持って、これから進んで行く未来を自分で決めましょう!”という歌詞になっています。

羅針盤が指し示す方向に希望があると。

希望もあるし、信じようってことですね。自分が決めた道なんだから、信じないとダメ。そういう部分で監督が入れてほしいと言っていた、未来に対する希望は精いっぱい表現したつもりです。

あと、歌詞からは“絆”も感じたのですが。

もちろん、それもあります。映画での彼女たちの絆が半端じゃなかったので(笑)。“友達”や“絆”って言葉選びによってはクサくなってしまうし、でもクサいぐらいのほうがいいんじゃないかって思ったりもして、なかなか苦労しました。一番最後の歌詞の部分で友達が“別々の道を進む時が来ても共に歩もうってどういうこと? 違う道なんでしょ?”って素朴な疑問を投げてきたんです(笑)。でも、学生時代の友達とずっと一緒なんてあり得ないじゃないですか。それぞれ大人になれば別々の仕事に就くし、それこそ結婚すれば、当然別々の家庭を持つわけだから。同じ道を進み続けるなんてあり得ない。だけど、映画の中の彼女たちの絆は簡単に崩れないと感じたし、心で、気持ちでずっと一緒にいることはできると思うんです。だから、そのことを書いたって説明したら納得してました(笑)

では、楽曲制作でこだわったところは?

この曲は構成がすごく変わっている…最初はよくあるAメロ、Bメロ、サビという構成でしたが、それだと普通すぎて面白くないんじゃないかと思い、今の構成にしました。初めて聴くとびっくりする人もいると思いますが、今までにない構成だからこそ、言葉がひとつひとつしっかりと耳に入ってくるかなと。そこはこだわった部分ですね。

一番と二番の構成が違うし、それこそ“どれがサビ?”って思いましたよ(笑)。そこが今作での一番トライ?

こだわったのは、やっぱりアレンジですね。あと、一番思ったのが、前回の1stアルバムはほんとにやりたいことだけをやらせてもらった作品だったのですが、今回は書き下ろしっていうプレッシャーがある中、いろいろな方々からの要望等もあり、それに絶対に応えたいとも思いました。でも、私が書きたいこともあるという、その辺の上手い調合方法が学べました。自分がやりたいことだけをやるのは聞こえがいいし、これからも基本的にはそうでありたいとは思っていますが、今作の書き下ろしに参加、挑戦させていただいたことで、人の意見もひとつのスパイスとして加えると自分の楽曲がより広がりを見せられると思えたので、本当に勉強になり、挑戦して良かったです。
矢沢洋子 プロフィール

ヤザワヨウコ:東京出身。12歳の時に家族とともにL.A.に移住。高校卒業後、日本に帰国し、2008年にユニットでデビュー。10年2月から、本名でのアーティスト活動を開始し、同年8月に1stアルバム『YOKO YAZAWA』を発表。12年10月には“矢沢洋子&THE PLASMARS”名義でミニアルバム『ROUTE 405』を、翌年11月には再びソロ名義で、矢沢永吉プロデュースによる『Bad Cat』をリリースした。オフィシャルHP

OKMusic編集部

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