【MARIA】やさしい歌い方が自分もの
になってきた
1stアルバム『WILL』以降、ロックスタイルからアコースティックへとシフトチェンジしているMARIA。その第三弾としてリリースされる「That LOVE」は、ヴォーカリストとしての新たな可能性を引き出すため、最初に着手した楽曲だそうだ。
取材:石田博嗣
「That LOVE」はライヴでずっと歌っている曲ですよね。デジタル要素の強いアレンジだったのが意外でした。それは、そういう要望を出したのですか?
去年に半年ぐらいかけて、新たな方向性をスタッフと話し合いながら楽曲集めをしていた時に、北浦正尚さんが提供してくださった曲なんですね。それまでの歌い方をちょっと変えて、新しい魅力を引き出そうっていう意見がスタッフからあって、私自身もそれにチャレンジしたいと思って、今までと違ったテイストの曲をチョイスしたので、こちらから要望を出したわけではないんですよ。正直言って、最初は曲を聴いても何もイメージできなかったんですけど、歌詞を付けて歌い込んでいくうちに、どんどん自分のものになっていった感じです。
まず原曲を聴いて、どんな歌詞を乗せようと思ったのですか?
バラードではないし、どちらかと言えばさわやかな楽曲なので、失恋は違うと思ったんですね。だからって友情でもないし、自分のことを歌う感じではないなって。で、恋愛をテーマにしようと思ったんですけど、さわやかなサウンドにさわやかな歌詞を乗せるのも違うと。そこに切なさも少し出すってなると、やっぱり失恋の方向かなって。そうやって世界観をいろいろ試行錯誤して、この歌詞に辿り着いたって感じですね。
打ち込みのクールな感じが物悲しさを醸し出しているので、失恋の歌詞はハマってますよ。
ありがとうございます。サビで《あの君》や《あの声》って歌っているんですけど、聴く人それぞれが“あの君 ”や“あの声”を想像してもらえるようなものしたくて、そこはいろいろ考えましたね。作詞家のヒロイズムさんにアドバイスしてもらったりして、ほんといいものができたなって。曲調がさわやかっていうこともあって、思い出をきれいに描きたかったんですよ。別れた時ってムカついたり、寂しかったり、悲しかったり、いろんな感情があるじゃないですか。そのネガティブな部分をあえて描かないようにしたんですね。私にとっては2年前の思いを歌ってたりするんですけど、時間が経ってネガティブな感情はなくなっているし、楽しい時間を一緒に過ごしたわけだから、それをきれいな思い出のまま持っていたい…そういう意味では、当時の彼にまだ恋しているっていう想いは残り香程度にありつつ(笑)、その時の恋をしている自分を描いた感じです。ジャケットを見てもらえば分かるんですけど、私のイメージとしては、春の木漏れ日の中、草が生い茂っている道を歩きながら感じている気持ちなんですよ。別れた彼を思い出しているんじゃなくて、あの時の恋をしていた自分を思い出している。自分の中で完結している歌詞なんです。
そんな歌詞を歌う、歌入れはどうでしたか?
そこが一番苦労したところっていうか、チャレンジでした。実は前々シングル『Good bye Good day』や前シングル『Deep into You』を録る前に録ったんですよ。新しい方向性を探している時に一番最初に手を付けた楽曲だったので、いろいろ指摘されましたね。“そこで強く歌うと聴いている人の感情が壊れちゃう。だけど、声を弱めるだけじゃダメだよ”って。歌い上げるんじゃなくて、声を抑えるんだけど、切なさとか感情は抑えちゃいけないっていうバランス…口で説明するのがすごく難しいんですけど(笑)、そういうものを意識しながら歌いました。最初は“なんで違うの? 今までの歌い方じゃダメなの?”って葛藤があったし、これでいいのかも自分では分からなかったんですよ。でも、周りのスタッフが私の声の魅力は今までと違うところにあるかもしれないって言ってくれるし、私もチャレンジしてみたい気持ちがあったんで、頑張って歌い続けましたね。そうすると、だんだん納得できるようになったし、ライヴで歌うようになって自分のものになっていったんです。だから、逆にすぐにはリリースしたくなかったんですよ。その歌い方が自分のものになってないのにリリースしたら、歌えないと思ったから、少し時間を置いて今回リリースすることになったんです。
歌に関してだと、カップリング「Daily life with you」が今までと一番違う印象を受けたのですが。
そうですね。やっぱり跳ねる部分だったり…淡々としているというか、歌い上げる部分がない曲なんで、感情の入れ方が難しかったですね。原曲を聴いた時に全然ネガティブなものが思い浮かばなかったから、“こんな経験を自分もしたい!”って女の子が憧れちゃうような恋愛を歌詞にしたんで、失恋の曲だと自分も失恋した気分になって歌うんですけど、踊りながらウキウキした気持ちで歌ってました(笑)
だからか、歌がやさしくなった印象がありましよ。
やさしく歌うっていうのは意識していました。それこそ去年の今頃から意識するようになったんですけど、1年間歌い続けた結果、自分ものになってきたように思えますね。
前回のインタビューでもおっしゃられましたが、ロックという縛りが取れて、今は自由になったという感じですよね。
ほんとにそれは思ってます。今考えるとなんですけど、前ってどこかで無理していたのかなって。速い曲を歌うことができないっていうか、そこまで自分はロックじゃないなって思ったことがあったんですよ。いろんな楽曲がある中、自分が歌いたい曲っていうのも偏っていたし…どっちかと言うと、アコギを弾きたいって。だから、今はエレキを封印してたり。でも、昔の楽曲を今歌ったら違うように聴こえるでしょうね。1stアルバムとか聴くと、“こんな歌声だったんだ”って懐かしいですから(笑)
3曲目は「Deep into You」のアコースティックバージョン。前作にも「Good bye Good day」のアコースティックバージョンを入れていたので、恒例化しつつあるという感じですか?
そうですね。ファンの方からTwitterやブログで“こっちにも来てよ”っていうコメントをいただいたりするんですけど、なかなか実現できなかったりするので、“ライヴはこんな感じなんだよ”っていうのを少しでも体感してもらいたいっていう思いがあって。あと、アコースティックバージョンとして録り直すんじゃなくて、ライヴをそのまま収録してるんですよ。だから、毎回ライヴの時に“いつかCDに入るかもしれない”という気持ちでやっているので、今まで以上にいろんなことを考えてるし、たくさん練習もしているし…それは音に表れていると思うんです。緊張すればするほど、いいライヴだったと言われるし。そういう意味では、アコースティックバージョンを入れるっていうのは自分にとってプラスになるし、ファンのみんなにとってもうれしいことなんじゃないかなって思うので、これは定番化したいですね。当たり前なんですけど、一枚のCDとして3曲目まで手を抜いていないっていうことでも。
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