【坊っちゃん】日常に転がる普通をド
ラマチックに!
シンプルなサウンドとともに奏でられる、分かりやすいメロディーと歌詞、チラホラと見え隠れするマニアックな感性。限りなく普通に近いが、決して普通ではない3人組、坊っちゃんがデビュー。
取材:榑林史章
タイトルが“高崎線に乗って”というのは?
鈴木
僕と(井手上)誠が埼玉の上尾市出身なので。
河村
僕は後からメンバーに加わったのですが、その時すでに「高崎線」という曲があって。それを聴いて、このバンドに入りたい!と思ったんです。
「高崎線」は、電車で昔の彼女のことを思い出す歌ですね。
井手上
くっきり見えるのに絶対に届かない、電車の窓の外の風景との距離感を、恋愛の記憶に重ねています。
鈴木
ある意味、女々しいというか(笑)。
井手上
僕の場合、後悔することが多くて。他にも、いろいろな後悔が詰まっているアルバムです(笑)。
河村
ファミレスでメニューを見て頼んだ後で、食べながらあっちにしとけば良かったって後悔してるもんね(笑)。
「中村」という曲では、名前を叫んでらっしゃいますが。
井手上
バンドを始めるきっかけをくれた親友の歌です。バンドを解散した後、彼の助けになればと思って自然と生まれました。彼は曲を作った後、亡くなってしまうんですけど…。今は悲しい気持ちというよりも、彼からもらった夢を、今度は僕らが追い続けて叶えたいと思っています。
どの曲も非常にポップで、ちょっとした味付けが絶妙ですね。歌の世界観は、学校や携帯とかマフラーとか、日常感にあふれているのですが、やはりベーシックにあるものはフォークソングでしょうか?
井手上
まさにそうです。僕が歌詞を書くきっかけになったのは、さだまさしさんの「雨やどり」という曲。歌詞カードを読まなくても、最初から最後まで歌詞が分かった曲は、それが初めてでした。それで、言葉ってすごい力を持っている!と思って、自分でも作詞をするようになって。聴いた人がちょっと考えられる余地を必ず残しているので、行間を読むようにして聴いてもらえたら嬉しいです。
「心はマナーモード」という曲は、途中で《ブールブール》とコーラスで振動音を歌っていて面白いですよね。
井手上
遊び心です。『みんなのうた』みたいな感覚というか。そもそも大事にしているのは、パッと聴いた時の面白さとか、スッと内容が入ってきたり、口ずさめるような感覚です。ヘタをすると“幼稚”だと言われるかもしれないけれど、それは子供心というか。“坊っちゃん”というバンド名を付けたのも、やっぱり根底はそこにあって。ジャケットのイラストも、絵本や教科書の雰囲気を出せていると思うし…分かりやすさとメッセージ性が、うまくミックスできているんじゃないかなって思います。
ジャケットはどこの風景ですか?
鈴木
上尾です。どこにでもありそうな郊外の風景、どこにでもいそうな普通の3人ということで。
河村
でも、ベッドタウンなので何もないんですよ(笑)。
鈴木
周辺には、狭山茶、小江戸川越とか、いろいろあるけど。むしろ何もないのが、名産と言っても良い!
井手上
でも、その匿名性が逆に良いと思う。そこで生まれた音楽だからこそ、どこの地方の人が聴いても、自分のこととして聴くことができる。普通の日常がふとした瞬間になくなってしまうこともあるわけで、だからこそどこにでもある普通の日常はすごく大切です。そういった、ある種の普遍性を詰め込めたアルバムだと思います。
アーティスト