【スコット・マーフィー】古今東西の
Xmasソングの名曲を堂々カバー

スコット・マーフィー、約2年振りの新作はまさに満を辞した感のある渾身のカバーアルバム。クリスマスソングの定番中の定番を洋楽、邦楽問わず多数収録した誰もが楽しめる今季のベストバイである。
文:帆苅竜太郎

間もなくクリスマスシーズンを迎えるわけだが、言うまでもなく、クリスマスと音楽との関係はかなり密接だ。“クリスマス=年末が近いことを知る”のはテレビやラジオ、あるいは街角で耳にするクリスマスソングの影響が大きいのは間違いない。また、こと日本でのクリスマスは本来の宗教的意味合いはほぼ鳴りを潜め、恋人同士にロマンティックな時間を与えてくれるものだったり、家族に楽しいひと時をもたらせてくれるものになっており、大多数の日本人にとってのクリスマスは高揚感をもたらすイベントであるのはこれまた疑いのないところだろう。クリスマスソングはこの高揚感を刺激してくれる動機付けとしての機能を持っている。簡単に言うと、ワクワク、ドキドキさせてくれる音楽──要するに“アガる”音楽である(有名なクリスマスソングには意外とロストラブソングが多いけど、それらは暗い曲とは思われていないし、ほとんどが前向きな解釈をしたくなる曲ばかりでしょ?)。
そんなクリスマスソングのカバーアルバムを、“カバーソングの伝道師”スコット・マーフィーが発表した。タイトルは“GUILTY PLEASURES CHRISTMAS”。国内外のポップス、ロックの名曲はもとより、日本のフォークソングやアニソンに至るまでさまざまな楽曲をカバーし続けてきた“GUILTY PLEASURES”シリーズの第8弾に当たる。もともとアメリカはシカゴにてメロディックパンクバンド・ALLiSTERで活動しているスコット。過去、彼の作品を耳にした人なら分かると思うが、キレのいいギターサウンドを基調としつつ、ポップかつリズミカルなバンドアレンジがスコット作品の特徴である。聴く人の気分を自然と高揚させるクリスマスソングがスコット流のエッセンスによってさらにテンションを増している…この作品はそう断言することに躊躇のないアルバムだ。収録曲は日本人なら誰もが耳にしたことがある名曲ばかりで、今作は今シーズンだけでなく、これから毎年クリスマスの時期になるとリピートされる名盤になる可能性すら秘めていると思う。では、その本作を、筆者が注目した点を交えて以下で解説してみよう。
まず注目したのは山下達郎の「クリスマス・イブ」(ENGLISH Ver.と日本語の2曲を収録)と、松任谷由実の「恋人がサンタクロース」。この2曲は邦楽のクリスマスソングのツートップとも言うべき楽曲なので収録は当然と言えば当然だし、もしかすると俗に言う“ベタ”な選曲と思うリスナーがいるかもしれない。しかし、角度を変えるとこんな見方もできる。山下達郎、松任谷由実の両名は方向性こそ違えど、若き日に洋楽から受けた影響をしっかりと自身の中で昇華し、日本のポップスシーンで確固たるオリジナリティーを創造してきた偉大なるアーティストである。そんなふたりの代表曲がアメリカ生まれの若きロックミュージシャンにカバーされているのだ。ブラックミュージックやカントリーなどのアメリカ音楽に傾倒したイギリスのバンドであるビートルズが、それらのテイストを自らのバンドサウンドに取り入れたことでR&Rが進化したという見方があるが、上記のカバーにはそんな国境を超えた音楽の交流が生み出す新たな希望を勝手に感じてしまった。実際、それぞれポップパンク!というべき軽快なバンドサウンドであり、過去に聴いたことがない「クリスマス・イブ」と「恋人がサンタクロース」に仕上がっている。しかしながら、原曲の骨子を壊すことのないカバーに仕上げている点にスコットから作者へのリスペクトが表れているようで実に心憎くもある。
さて、このアルバムの最大の特徴というと、やはり冒頭で述べた“クリスマスソングがスコット流のエッセンスによってさらにテンションが増している”点に尽きるように思える。文句なく楽しいポップチューンに仕上がっている「WINTER WONDERLAND」や、ストレートなバンドアレンジが光る「CHRISTMAS SONGS MEDLEY」もスコットらしさを端的に表現しているが、筆者は広瀬香美の「DEAR…again」と、辛島美登里の「サイレント・イヴ」に注目してみた。両曲がバラードナンバーであることは多くの人が知るところだろうし、今回収録されているカバーもBPMが極端に上がっているわけでも、ヒップホップのような極端に原曲と異なるアレンジが施されているわけでもないが、いずれも“スコット・マーフィーの手にかかるとこうなる!”の見本のようなナンバーに仕上がっている。ともに特にBメロからサビへのドライヴ感がとても心地良く、原曲になかった独自の解釈が生まれているようだ(もしかすると原曲にあるニュアンスをスコットが強調したのかもしれない)。“この人は本当にロックが好きなんだなぁ”と思わせる逸品で、これを聴くだけでも本作を手に取る価値はあると思う。
これ以外にもマライア・キャリーの「ALL I Want For Christmas Is You」やWHAM!の「LAST CHRISTMAS」、邦楽では稲垣潤一の「クリスマスキャロルの頃には feat.舞花」、坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence」を経て、このアルバムはラストのスコット・マーフィーのオリジナル曲「This Christmas Time」に辿り着く。00年代以降の世界的スタンダードに準拠したかのような正統派ロックチューンで、キャッチーだが嫌味のないメロディーが素敵なナンバーだ。名曲たちと肩を並べても遜色がないポップセンスはスコットの面目躍如と言えるとともに、これをラストに置いたことに彼のプライドが垣間見えると思うのはひねくれた見方だろうか。いずれにせよ、彼の類稀なるメロディーセンス&ポップセンス、言い換えればスコット・マーフィーの魂をいかんなく感じとることができる秀曲なので、これもまた要注目に値すると思う。さまざまなシーンのBGM足りえる側面と同時に、ロックミュージックとしての必要十分条件を兼ね備えたアルバム『GUILTY PLEASURES CHRISTMAS』。世代を超えて支持されるクリスマスシーズンのヘヴィローテーションとなるアルバムになるだろうし、2012年のマストバイと推したい一枚である。
『GUILTY PLEASURES CHRISTMAS』
    • 『GUILTY PLEASURES CHRISTMAS』
    • UPCH-1893
    • 2012.10.24
    • 2000円
スコット・マーフィー プロフィール

スコット・マーフィー:アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身、在住のロックミュージシャン。95年にメロディックパンクバンド、ALLiSTERを結成。01年の初来日時から日本に傾倒し、独学で日本語を勉強。現在ALLiSTERとソロ活動を両立して活躍中! スコット・マーフィー Official Website
スコット・マーフィー オフィシャルサイト
オフィシャルHP

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