L→R TOC(MC)、DJ KATSU(DJ)

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【Hilcrhyme】『LIKE A NOVEL』から
また新たな一歩を刻んでいく

ベストアルバム後、初となるオリジナルアルバムをドロップしたHilcrhyme。今年に入って制作スタイルを改善したことで、よりスムーズにクオリティーの高い作品を生み出すことができたという。
取材:ジャガー

ベスト後のアルバムだから進化を遂げな
くてはいけない

今回の4thアルバム『LIKE A NOVEL』を象徴する一曲として先行リリースされた,シングル「Kaleidoscope」の取材時にもかなりの手応えを感じているようでしたが、改めてアルバムが完成した現在の心境はいかがですか?

KATSU
前の3rdアルバム『RISING』よりも早く出来上がっていたんで、やっとリリースできるなって感じですね。シングルで出した「蛍」や「ジグソーパズル」が先にできて、その後ぐらいには全体像はだいたい見えていたような。

それはおふたりが鳴らしたかった音であり、かたちにしたかったものがはっきりと共有されていたから早かったのではないですか?

KATSU
そうですね。わりと具体的にイメージを共有させてたかもしれない。グルーブ感だとか、メロディーとヴォーカルとの干渉し具合っていうか。今まではあまり打ち合わせをせずに、お互いが自分の感覚を信じて作業を進めていたんですけど、活動を続けていく中でちょっとずつ認識のズレが生じてきてしまって…自分はラップも歌もしないから、リズム次第でラップのノリがこんなにも変わるんだとか驚きもあったり。そのへんを話し合うことでちょっとずつズレてきた認識を補正していきました。

楽曲制作に取り組む前に、今一度お互いを見つめ直す良い機会になったようですね。

KATSU
早い段階でベストアルバムを発表したから、今までと同じようなことはしたくなくて。あの時期にベストを出したのは、新しい次のステップへ行くためだったし、そうなるとHilcrhymeが何なのか、今やりたい音は何か、どういうメッセージを伝えていきたいか…やっぱり話し合う必要はありましたね。それで初心に帰るじゃないけど、すごくフレッシュな気持ちで制作に臨むことができたんで、技術面でもいろいろ挑戦することができたし、作品にきっちり反映できたかなって思います。ベスト後の初のオリジナルアルバムで、『LIKE A NOVEL』からまた新たな一歩を刻んでいくような、自分の中でも先が見えてきましたね。

ひとりひとり感じ方や考え方に多少なりとも違いはありますよね。“LIKE A NOVEL”というアルバムタイトルからして、意欲作になっているのだろうなというのは感じました。これまでの1ワード括りもないですし。

TOC
そうですね。さっきKATSUも言ったように、ベスト後初となるアルバム。進化を遂げなくてはいけないので、気持ちも新たに『LIKE A NOVEL』から1ワードのタイトルは止めようってなりました。
KATSU
1、2曲目は完全に“LIKE A NOVEL”というコンセプトにのっとっています。1曲目に「LIKE A NOVEL ?prologue-」のようなインスト楽曲を付けるっていうのも、後になってから付けてみようって話になって。タイトルが決まってからが,作業はやりやすかったですね。物語が始まるってコンセプトだから、メロディーで聴かせるよりは曲の持つ雰囲気だったり、聴いた人の想像力を掻き立てるようなものにしようと思って、SE的なものを強めに入れて。で、「NOISE」はガツンとアゲてギャップで魅せるという。つながりはあるけど、雰囲気がガラッと変わるので小説っぽい演出というか、自分なりの。そういうイメージで作りました。

「NOISE」で物語の核へと引き込まれていく感じですよね。こういった曲を聴いて、TOCさんはどういうリリックを乗せようと思いました?

TOC
今までにああいう音を使ってるトラックがなかったから、歌詞も今までにないことを書こうとは思いました。うーん…「NOISE」は意思提示かな。4年目の意思提示って感覚だから、歌ってても気持ち良かったです。あとはアルバムの一発目で爆発力もある曲だから、たぶんライヴでも1曲目かなっていうのを想定したんで、激しさをより強調できればいいなと。

重めのアッパーチューンからだと、美しい旋律を奏でる「Kaleidoscope」が映えますね。

TOC
そうですね。ここの流れはすごい好きです。曲順はいつもそうなんですけど、出そろってから全体の流れを見て決めいて。これはちょっと次回作への課題なんですけど、本当は流れを意識した曲作りもやりたかったんですよね。アルバム全体でのストーリー性というか、十数曲でひとつの作品として完結させたいって思いが強くなってきているので。でも…今回も良い流れが意図せずともできてるから、無意識のうちに考えてはいるのかもしれないですね。そのあたりをちゃんとコントロールしたいです。

彼らの戦ってる姿を見て俺も頑張んなき
ゃなって

個人的には「STAY ALIVE」にすごく感銘を受けました。夢を追いかけている人に対して、安易な励ましを投げかけるのではなく、敬意を持って歌われているのがいいなと。

TOC
自分自身、「STAY ALIVE」はすごく気に入ってます。ラブソング以外でのリードっていうことだったらこれかなって思うぐらい。応援ソングじゃなくて…何て言うんですかね。“戦っている人とともにある曲”、そういう立ち位置であってほしくてこの曲を作りました。

メッセージを発信する者としての覚悟も込められた歌だと思いました。だから、表現がものすごくストレートで。

TOC
この曲を書くのに具体的な対象者がいて。俺、高校時代剣道部だったんですけど、地元の剣道部の後輩に向けて書いたんです。ちょうどあいつらがインターハイに行ったんですよね。だから、サビの《今 君は立つ 大きな舞台へ》っていうのもあいつらがインターハイまで行ってなかったら出てこなかった歌詞です。戦いっぷりを見て、感化されましたね。

なるほど。対象者がはっきりしていると、熱量も自然に高まりますよね。《戦う事すら出来ない同士達が横に居る》っていうのは、惜しくも負けて去ってしまった仲間たちだったり?

TOC
あとは補欠で応援してる奴らのことですね。同じ舞台には立てなくても、気持ちはみんな一緒で…だから、あいつらが戦っている姿を見て、俺も頑張んなきゃなって喝を入れられた感じです。新しいことを恐れずにやっていきたいなと思うし。その曲は後輩のために書いた曲だけど、自分自身への曲でもある。

こういうサウンドメイクも新鮮ですよね。

KATSU
そのトラックも今年の作り方で誕生したもので。ざっくりとしたラフを作って、その中から作り込んでいくものを決めて。で、「STAY ALIVE」は最初ほぼピアノだけの状態で、もともと間奏に使おうと思ってたメロディーをサビに持ってきたんですよ。間奏用に作っていたメロディーをメインに持ってくるって発想も自分ひとりでは出てこなかったでしょうね。そこはふたりで話し合ったおかげというか。だから、この曲も今年を象徴するかたちのひとつですね。個人的な好みとして、マイナー感のあるカッコ良いサウンドが好なんで、こういう曲調はやっぱり好きだし、作りやすかったです。

深い時間のクラブイベントに映えそうな「夜ノ音」についてはいかがですか?

KATSU
トラックは完全にクラブですよね(笑)。90年代に流行ったというか、自分が全盛期でDJやってた頃のノれる曲をイメージしました。
TOC
何も説明は受けなかったんですけど、曲を聴いた時にたぶんそういうものにしたいのかなっていうのは感じたので、歌詞でも90年代を出してみました。「夜ノ音」は、長く聴ける曲。例えば、「Fake City ?Instrumental-」はずっと聴いてたら耳痛くなるだろうし、ちょっと癒す感じで「夜ノ音」が聴こえてくるといいんじゃないかなって。同じように作品を作るなら、長く聴いてもらえるアルバムにしたいじゃないですか。“LIKE A NOVEL”ってタイトルにしたのもそういう意味があって…漫画だったらすぐ読み終えちゃうけど、小説って栞を挟んで、何週間にも渡って読むものじゃないですか。「夜ノ音」はそういう曲ですかね。何回も聴いてくうちに “あっ、この曲いいかも”って思ってもらいたいですね。

力強いメッセージとしては、「我ガママ」もありますが。

TOC
ループするサビがないっていうのも初めてだし、途中で音をぶちっと切って、戻してみたりとかして、わりと遊んだ曲です。作ってる段階でこのままストレートにいくと飽きちゃうなって思って音を切りたくなっちゃったんですよね。で、アカペラにしたんですけど。単純に楽しんでもらえたらって思います。

そして、「LIFE IS GOOD」で締めと。ここではクラシックの代表曲のひとつ、パッヘルベルの「カノン」を盛り込んでいますよね。

KATSU
最初は王道な曲を作りたいっていうので、カノン進行の曲を作って。それも結構昔の話なんですけど。で、その曲をはめたいからBPMちょっと上げて、レコーディングまではあくまでカノン進行だったんですけど、結局「カノン」のフレーズをそのまんま入れたほうが面白そうだって話から今のかたちに落ち着きました。

TOCさんの書く歌詞には、対象とする相手は違えど、聴いた人自身が自らの力でどうにかしようとする、奮い立たせる内容が根底に刻まれていますよね。

TOC
それはありますね。何でなんだろう…やっぱり、それは誰かに歌ってるよりは、自分に向けてるのかなって最近思うんですよね。奮い立たせようとしてるのは、結局自分なのかなって。応援ソングはHilcrhymeのトラックリストにはないと思ってて。それよりかは自分であることを誇る曲ばっかりだと思います。

年明けからはツアーも始まりますが、ライヴはどのような景色が広がっていくのか楽しみですね。

TOC
ライヴをして曲は完成すると思うから、今回のライヴが今までで一番良いものになるだろうし、新しいアルバムを披露するわけだから、新しいライヴをたくさんやろうと思います。ライヴを観て “あぁ何か聴いてたのと違うな”って残念に思うこともいちリスナーとして経験あるから、Hilcrhymeのライヴではそんなことを絶対感じてほしくないんで、まじ気合入れてますね。しかも、ライヴに来てるだけで耳が良くなってると思うんですよ。だから、下手なもんは絶対観せらんないし、とにかく練習あるのみなんですけど。ファンの期待を超えたいですね。
KATSU
今回はベスト後だし、ファンの人はある程度予想してやって来ると思うので、そういった予想を良い意味で裏切る内容ができたと思うんで…楽しみです。
LIKE A NOVELUNIVERSAL J
    • 初回限定盤(DVD付)
    • UPCH-9794 3600円
    • 通常盤
    • UPCH-1900 3059円
Hilcrhyme プロフィール

ヒルクライム:ラップユニットとして2006年に始動。09年7月15日にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。2ndシングル「春夏秋冬」が大ヒットし、日本レコード大賞、有線大賞など各新人賞を受賞。ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。また、叩き上げのスキルあるステージングにより動員を増やし続け、14年には初の武道館公演を完売。「大丈夫」「ルーズリーフ」「涙の種、幸せの花」「事実愛 feat. 仲宗根泉 (HY)」などヒットを飛ばし続け、24年7月15日にメジャーデビュー15周年を迎える。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力をベースに、ラップというヴォーカル形式だからこそ可能な表現を追求。ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂である。耳馴染みのいいメロディーと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。Hilcrhyme オフィシャルHP

OKMusic編集部

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