【高橋 優】光を探すのではなくて、
自分が照らせる闇を探す

“明滅”という言葉は、今、僕の中でト
レンドワードみたいな感じ

今作、セルフプロデュースという感覚はあるのかな?

いや。結構、エンジニアの人に頼るんですよね、僕。歌を自分で判断できなかった時に、“今の、どこが歌として成立してないと思いますか?”って訊くんですよ。そういう時点で、まずセルフではないですよね。ただ、良いものをやりたいという意識は今までで一番強かったと思います。それはセッションで作る良いものでも、花火のように一瞬で咲いて散るようなものでもなく、ずっと聴いてもらえるようなものというか、自分が“これは遺作だ”とか言えるくらいのもの(笑)。そうじゃないと、世の中に表現するべきじゃないと思ったんですよね。

そこまでの感覚になったきっかけというのは?

僕が、そういう作品が好きなんだと思います。映画にしろ、漫画にしろ、“この人、本当にこれしかないんだな”みたいなのに励まされるし、やる気にさせてもらえるんですよね。

なるほど。「WC」は、かなり言い放ってる感じですが。

わりと自分らしいかな、表現の仕方とかも。“工夫する”というよりは“爆発させる”みたいな、歌詞を書く段階から言いたいことを我慢しないで全部言っちゃおうって感じでしたね。ただ、ある程度ギミックというか、そうとも取れるし、こうとも取れる…何のことかは分かるようにしてるけど、あえて抽象的にしたのは何カ所もありますね。

「同じ日々の繰り返し」は、古い映画のようなニュアンスで。

これも池窪くんが“映画みたいにしたい”と言って、なるほど…と。曲中にずっとフィルムがクルクル回ってる音が入ってたり、古い映画のノイズみたいなのをわざと入れてたりするんですよね。そうすることで、何が起こるんだろう?って正直レコーディングまではイメージが沸かなかったんですけど、結果、やさしい光というか、ほのぼのした感じになって。こういう効果を生むのか!とちょっと勉強になりましたね。

歌い方というか、声が…クスッと笑える感じだね。

明るい照明の中で手拍子なんかしてもらったりして歌うのをイメージしてたので、自然と明るい声になったと思うんですけど、内容的にはこのアルバムの中で一番残酷なことを歌っているようにも個人的には思っていて。“同じ日々の繰り返しって、ダメじゃん!”みたいな(笑)。それを嘆いてるようにも取れちゃう曲なので、聴き方によっては嘆きソングになっちゃいそうで…。だから、ああやって映画のサウンドっぽくしたりすることで、それをファニーな感じにするというか。そういう歌声を乗っけようとしたんですよね。

そして、シングルでもある「旅人」なんだけど、この歌の聴こえ方がすごく変わったんだよね。

僕もちょっと変わりましたね。

これが大テーマ? アルバムの中のテーマの根源がこれなのかなって気がしたんだけど。

そうですね。アルバムの中で最初にできたのが「旅人」で、歌っていることのテーマがアルバム全体を象徴しているんだと思いますね。これを書いたあたりから、このアルバムに向かっていたというか、歌わんとしているテーマが見え始めていたんだと思います。“光を探すのではなくて、自分が照らせる闇を探す”という。

同時に、救われた感がちょっとあったんだよね。全体の中に置かれた時に妙な説得力を感じて。

作っていた当初とか、実は今もまだ「旅人」という曲が自分の中で消化できてないんですよ。眠くなりながら無意識に近いような状態でバーッと書いたような記憶はあるんです。それでも、そこに自分の中で一本筋を通したつもりだったけど、後々歌うと、自分で作ったくせにすごく難しくて。気持ちの込め方、どこにアクセントを持っていけばいいんだろう?とか、まだ悩むんですよね…。だけど、このアルバムはこの曲から始まっているなっていう、その思いはありますね。

締めは「おやすみ」になりますが、クールダウンとしては最適な落としどころというか…包んでくれるね。

はい。寝る前に…(笑)。

いろいろと聞いてきましたが、曝け出すことで切り開いてきたここ1年で、自然と纏った鎧みたいなものがあると思うんだけど。その集大成的にアルバムを聴かせてもらって、試みは大成功だと思ったのね。誰でも積み上げた時間の上に、今があるんだろうけど、これは“高橋優2ndステージ”の着地みたいな意識ってあるのかな?

まだ分からないですね…それは。何かが完成したと思っちゃうとすごく怖いんですよ、もう何もやらなくていいような気がして…。僕がやりたいのは人との会話、キャッチボールなんです。だから、音楽はちゃんとつながり合っていけるのかということだと思っているんです。ひとりよがりになったらつながれないし、世界が誰ひとり自分の歌を聴きませんとか決意表明されたら、僕も歌わなくなるかも分かんない。次は何を歌ってくれるんだ?って言ってくれる人がいるから、その人たちの力を借りて“よっしゃ〜次は何を歌おうか?”って始まりがあるんですよね。だから、アルバムがリリースされて何が起こるのかって、前は結構不安だったけど、今はそれがすごい楽しみって感じです。

最後にタイトルなんだけど。このアルバムだからということじゃないよな、と。切り離せないもの、持ち続けてる高橋優的感覚の普遍性を置いたのかなって思うと、勝手だけど合点がいったんだよね。このタイトルのとらえ方って?

端的に言うとアルバムタイトルは“高橋優”で良かったんですよね。だけど、自分にとって変わる代名詞みたいなものは1stで『リアルタイム・シンガーソングライター』を出しているし…と、自分の中にある普遍のテーマやものを題材にしていろいろ考えましたね。ただ、大きく変わっているのは“誰もが光になれる”ということ。それは新しいんですよ、僕の中で。僕でも誰かを照らすことができる。“自分が幸せになるとかの前に、誰を幸せにできるんだ、お前は”って。そういう気持ちに今はなっているんです。幸せにしたいと思う人がいたら、幸せにされたいと思う人がいる。それを光と陰に例えているというか。どこでもそんなことが繰り広げられていて、そこに愛し合いがあったり、憎しみがあったり、今まで書いてきたことと大差ないかもしれないけど、“明滅”という言葉は、今、僕の中でトレンドワードみたいな感じなんです。それが、このアルバムの一貫したテーマなんですよね。自らが光る方法というか、誰かを照らすこと。

出し切ったという感じ?

そうですね、今現状やれることは全部やったので。今は次の発想はなくて、まずこのアルバムに入っている曲を自分なりにもっと表現できるようになりたいと考えてます。

ぜひ、納得のいく「旅人」が聴いてみたいね。どういう表現になるのか。

では、10月から始まるツアーに、ぜひ、いらしていただければと思うんですけど…(笑)。

(笑)。はい、楽しみにしてます。ありがとうございました。

『今、そこにある明滅と群生』2014年08月06日発売WARNER MUSIC JAPAN
    • 【初回限定盤(DVD付)】 
    • WPZL-30896〜7 3672円
    • 【通常盤】
    • WPCL-11944 3240円
高橋優 プロフィール

タカハシユウ:1983年12月26日生まれ。札幌の大学への進学と同時に路上で弾き語りを始め、08年に活動の拠点を東京に移し、10年7月21日、シングル「素晴らしき日常」でワーナーミュージック・ジャパンよりメジャーデビュー。13年11月には日本武道館での単独公演を成功させた。デビュー5周年迎える15年7月にはベストアルバムをリリースし、同月25日には秋田県の秋田市エリアなかいちにてフリーイベントを開催。高橋 優 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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