L→R TOC(MC)、DJ KATSU(DJ)

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【Hilcrhyme】“四季”をテーマにし
たコンセプトアルバム

Hilcrhymeの楽曲を四季ごとに分けたコンセプトアルバム『春夏秋冬~Hilcrhyme 4Seasons Collection~』。新曲「HAKU-SAN」も加わって、物語性を帯びた、彼ららしいアルバムに仕上がっている。
文:帆苅智之

 Hilcrhymeと同郷、すなわち新潟出身の芥川賞作家、藤沢周氏がテレビ番組にて“新潟の魅力って何ですか?”と訊かれ、“四季がはっきりとしているところ”と話していた。なるほど、と思う。新潟県外の人からすると、やはり“新潟=雪国”のイメージが強いらしく、初めて夏の新潟を訪れて“涼しくないのね?”と思う人もいるとかいないとか。標高の高い場所はともかく、平野部は当たり前に夏は暑い(それどころか、新潟市付近では日によって国内最高気温を記録することもあるくらいだ)。海岸線も長いので夏は海水浴客も多いし、マリンスポーツも盛んだ。豪雪地帯だけに冬は山間部がウインタースポーツで賑わいを見せることは言うまでもないが、山が多いということは秋になれば紅葉もきれいである。秋の魅力は景観の美しさだけでなく、新米も美味いし、野菜、果物、何なら海の幸も豊富だ。春はどうかと言うと、各地で花が咲き乱れる。チューリップの切り花出荷数は全国1位で、県内各地に広大なチューリップ畑があるし、桜の名所もたくさんある。中でもTOC(MC)の出身地である上越市の『高田城百万人観桜会』は有名で、毎年約150万人以上が来場。約4000本の桜が咲き、3000個以上のボンボリが立ち並ぶ様子は日本三大夜桜のひとつに数えられている。つまり、新潟はそれぞれの季節をしっかり感じられる土地なのである。それゆえに、新潟出身のHilcrhymeが名曲「春夏秋冬」を作り上げ、その楽曲でブレイクを果たしたのも実は自然なことだったと言える。まさしく《今年の春はどこに行こうか?/今年の夏はどこに行こうか?》《今年の秋はどこに行こうか?/今年の冬はどこに行こうか?》なのである。そして、ファンならばご存知の通り、Hilcrhymeには「春夏秋冬」以外にも四季を綴った楽曲がこの他にもたくさんある。今回、コンセプトアルバム『春夏秋冬~Hilcrhyme 4Seasons Collection~』がリリースされるのもある種、必然だったと言ってもいい。
 今作は四季をテーマにしたコンセプトアルバムではあるが、春夏秋冬毎の楽曲をチョイスして並べた、所謂“カレンダーアルバム”的な作品ではない。説明するまでもないことだろうが、これはHilcrhymeの楽曲に四季を綴った楽曲がたくさんあるとはいえ、それらが単に四季の風景を描写したものではないからだ。彼らの楽曲は、四季それぞれに寄り添いながら、その中の物語であり、もっと言えば、その季節の中に登場する人物たちの心情を紡いだものである。《春の桜も夏の海も あなたと見たい あなたといたい》《秋の紅葉も冬の雪も あなたと見たい あなたといたい》のだ。それは今作の収録曲、M3「春夏秋冬」以外で言えば、M7「蛍」の《気付けばもう春はすぐ/終わり三回目の夏が来る》《ユラユラ揺れる光見て笑う君がいる/蛍もう少しだけ淡く儚く揺らめいていて》でも顕著だし、悲恋であるがM13「もうバイバイ」の《迎えた四度目の冬は隙間無く/二人を包み込むように雪が舞う 冬が好きでしょうがない/あなたに 粉雪が施した雪化粧》もそれに当たる。ラブストーリーだけじゃない。M5「YUKIDOKE」の《雪が溶けて俺たちは離れてくけど/時は巻き戻せない/やがて桃色に染まるだろう/あの木の下でまた会おう》や、M8「BOYHOOD」の《真夏の夜明け輝くオリオン座/誰もいないプールに飛び込んだ/見つかってがむしゃらに走った》の学生時代の思い出を描いたもの、あるいはM9「Summer Up」で歌われる《海 山 川 開放的なロケーション/気にしない時間外した腕時計は/日が昇りそして沈むまで》といった享楽的なシチュエーションもある。キャッチーで耳馴染みのいいメロディーがほとんどで、バックトラックはピアノやアコースティックギターの音色を中心に備えた体温を感じさせるものが多いというのがHilcrhymeの特徴であるので、そこにはしっかりとした叙情性があり、決して聴き流せる代物ではなく、自身を投影させながら向き合える作品だということは分かっていただけると思う。
 また、本作はセレクトの妙味もあってか、収録曲がそれぞれに独立して散りばめられているわけではなく、ある程度の連続性を持っていることも強調しておきたい。それはオープニングのM1「ツボミ」と、続くM2「FLOWER BLOOM」から表れている。「ツボミ」では《俺たちはツボミ いつか花を咲かせよう》として《1月 梅 藪椿/2月 クロッカス 菜の花/3月 菫 桃に沈丁花…(以下続く)》と12カ月の花を紹介しつつ、《君の花はどれ? いつどんな風に咲くの? 決まってない自由に/1年中様々な花 開くつぼみがまた…》と語りかける。そして、「FLOWER BLOOM」では《晒される雨の中で/思いは変わらずつぼみのままで/再び強く咲きたい願った/地に張った根っこは残ったまんま》と、未だにつぼみのままであるものにも温かい視線を注ぎ、《A flower may bloom again/カタチを変え 花は2度咲き誇るだろう/誰も見てない場所で前よりも/大きな花を咲かせるだろう》と、とことんエールを送る。そのアティチュードはM12「Changes」《君が変われば世界が変わる/世界が変われば明日が変わる/好きになろう 自分を/確かに変わる事は怖い でも/君が変われば明日が変わる/明日が変われば何かが変わる/change your life. too easy/嘘じゃない 嘘じゃないぜ》にも貫かれており、この前向きさはHilcrhymeらしさでもある。その物語の連続性は、書き下ろしの新曲、全編ラップのバラードM15「HAKU-SAN」でも発揮されているのが心憎い。この楽曲は2008年にインディーズシングルとして、そしてメジャー3rdシングルとして発表されたM13「もうバイバイ」のサイドストーリーである。ファンはご存知の通り、「もうバイバイ」は冬を舞台に切ない世界観を描いたナンバーだが、「HAKU-SAN」では…いや、そこはぜひ聴いて確かめてほしい。若干補足するなら、“HAKU-SAN”とは新潟市の総鎮守である白山神社のこと。また、リリックの《雪の古町》の“古町”とは新潟県下最大の繁華街の名称であり、地名でそれを“雪の降る街”とかけてダブルミーニングにしている。これもまた“新潟の冬”を見事に捉えている。これからの季節に聴き応えがあることは言うまでもない。
『春夏秋冬 ~Hilcrhyme 4Seasons Collection~』2015年11月18日発売UNIVERSAL J
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • UPCH-7073 4212円
    • 【通常盤】
    • UPCH-2058 3240円
Hilcrhyme プロフィール

ヒルクライム:ラップユニットとして2006年に始動。09年7月15日にシングル「純也と真菜実」でメジャーデビュー。2ndシングル「春夏秋冬」が大ヒットし、日本レコード大賞、有線大賞など各新人賞を受賞。ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。また、叩き上げのスキルあるステージングにより動員を増やし続け、14年には初の武道館公演を完売。「大丈夫」「ルーズリーフ」「涙の種、幸せの花」「事実愛 feat. 仲宗根泉 (HY)」などヒットを飛ばし続け、24年7月15日にメジャーデビュー15周年を迎える。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力をベースに、ラップというヴォーカル形式だからこそ可能な表現を追求。ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂である。耳馴染みのいいメロディーと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。Hilcrhyme オフィシャルHP

OKMusic編集部

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