【中村一義】こんな世の中だからこそ
、あらゆる歓びを謳いあげる

孤高のシンガーソングライター、中村一義が新バンド“大海賊”とともに戻ってきた! 約4年振りにリリースするニューアルバム『海賊盤』がポジティブなメッセージとジョイフルなムードにあふれた作品になった理由を中村が語る。
取材:山口智男

アルバムのリリースは約4年振りですが、その間もライヴ活動は精力的に続けていましたよね。

はい。前作の『対音楽』を作って、『金字塔』というデビューアルバムからそれまでの自分の表現が一巡できたかなと思ったんです。その時はひとつやり切った気がして、“活動にひとまずピリオドを打つこともできるよな”とちょっと思ったんですけど、それまでレコーディングアーティストとして活動してきて、ライヴをやるにしてもその時に作ったアルバムのコンセプトでやることが多かったので、今度は生身の中村一義としてライヴをやっていったらどうだろう?って思ったんです。それで100sのギタリストの町田(昌弘)と『まちなかオンリー!』というアコースティックセットのトーク&ライヴを始めたら、そこにHermann H.&THe Pacemakersのメンバーや、地元の江戸川で年に1回やっている『エドガワQ』のメンバーが集まってきてくれて、どんどん人が増えていって。その集大成が今回の『海賊盤』なんです。

大人数で音楽を演奏する楽しさを感じたわけですね。

それもあるし、ひとりひとりの個性がかぶることがないんですよ。ギターを弾ける人が4〜5人いるんですけど、同じギター弾きでもそれぞれに持ち味が違うので、それを引き出していくのは、今回プロデュースしながら僕も面白かった…んですけど、すごく大変でもありました(笑)。でも、なんか昔のサザンロックのバンドのような感覚もあります。それだけの人数が集まると、どうしても民族というか、大家族みたいになってくる。極端ですよね。『対音楽』が全部ひとりで演奏して、レコーディングするというアルバムだったので、いきなり11人(+中村の愛犬)はすごい。そういう極端さが楽しい。レコーディングはその楽しい状態を、いかに音にするかという作業でした。“大海賊”という名前通り、みんなすごい酒飲みで、レコーディングしていると、いつの間にかビールの空き缶が散乱してるんですよ(笑)。

その“大海賊”というバンド名はどこから?

普通の人が平気な顔して、悪事を働いてるような道徳観が崩れてしまったこんな世の中だから、逆に賊になっちゃおうって。そうやって自分を律して、いいことをしていけばいいんじゃないかって思いました。ダークヒーローじゃないですけど、自分たちが正しいと思うものがあるなら自分たちで掲げていかないと。もっとも、それ以前にメンバーが飲んだくれの荒くれ者ばかりなので(笑)。

『海賊盤』を作るにあたっては、すでにライヴでもやっている1曲目の「スカイライン」からイメージを広げていったのですか?

そうですね。『対音楽』の最後に東日本大震災に関する曲…いろいろな方からいただいたメッセージをもとに歌詞を紡いだ曲が入ってるんですけど、実際に東北へ行ってみたら、亡くなってしまった人の気とか、やるせない顔して街を歩いている人たちの気がビンビン自分の中に入ってきちゃって、この土地に関わったからには、何か“ここから!”という曲を書かなきゃいけない、この旅の間にできたら本物だと思ったんですよ。その想いを押し出してできたのが「スカイライン」で。もう中途半端に“こういうことがあったから強く生きよう!”って言うだけじゃダメだ、残してもらったってことは生かされてるってことなんだから、生きるってことを完全に肯定した賛歌にしなきゃダメだと思ったら、歌詞も曲もツルっとできて、あとはアレンジだけだって状態で帰ってきたんです。だから、作ったのはもうずいぶん前になるんですけど、それから町田と回っているトーク&ライヴでも何度も演奏してきて、そんなふうにライヴでやってから音源にするって、僕にとっては珍しいことで。だから、今回はお客さんも含め、みんなで作り上げたアルバムという気持ちもあって、その分、掛け声が多かったり、ライヴを意識した曲が多くなりましたね。

『海賊盤』と同じタイミングで、『金字塔』を再現したライヴ『エドガワQ 2015』の模様を収録したDVD『金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~』もリリースされますね。

『金字塔』を作った約20年前、僕はライヴをしないアーティストだったんです。それを前提にデビューしたんですよ。だから当時、『金字塔』を気に入って聴いてくれてた人たちに『金字塔』の曲をちゃんとライヴで聴いてほしいという思いがずっとあって。でも、再現ライヴをやるならビジュアル的にも地元の江戸川がフィーチャーされたアルバムなんだから、江戸川でやったらみんなも喜んでくれるんじゃないかって。わざわざ江戸川まで足を運んでもらうことにはなっちゃうんですけど、15年11月28日に江戸川区総合文化センターで開催したんです。そしたら会場まで足を運べなかったという声が結構あって(笑)、それならDVDにしてみんなに観てもらおうと。人に音が届いたところを確認して、作品が完成すると考えるなら、『金字塔』はこの日のライヴで完成したんだと思います。『金字塔』を聴いてくれた人たちの記念としても残したかったんですよ。約20年前にリリースしたアルバムの再現って懐古主義みたいに思えるかもしれないし、僕自身、前ばかり見ているような人間だから、そういうのは好きじゃないんですけど、ちょうど『海賊盤』という新しいアルバムがリリースされるタイミングだったので、僕のアーティストとしての出発点と『対音楽』を経てからの後半戦の第一歩を重ねたら面白いんじゃないかって思ったんです。『金字塔』以降の全部を連れて、後半戦を行くみたいな感覚がなんか宿命付けられているみたいでね。ただ、デビューの時とは違って、僕の音楽を信じて、聴いてくれている人がいっぱいいる中での再出発なので、ひと回り大きくなって新たなスタートができるのかなという気がしています。
『金字塔完成記念日 ~エドガワQ 2015~』
    • 『金字塔完成記念日 ~エドガワQ 2015~』
    • VIBL-793
    • 2016.03.02
    • 5940円
    • 【通常盤】
    • VICL-64514
    • 3240円
    • 『海賊盤』
    • 【初回限定盤(DVD付)】
    • VIZL-927
    • 2016.03.02
    • 3780円
中村一義 プロフィール

ナカムラカズヨシ:1975年2月18日、東京都江戸川区生まれのシンガーソングライター。97年、シングル「犬と猫/ここにいる」でデビュー。セルフプロデュースしたデビューアルバム『金字塔』は独特の日本語の歌詞と卓越したポップセンスが日本のミュージックシーンに大きなインパクトを与えた。以来、ソロ、そして6人編成のバンド“100s(hyaku-shiki)”としても精力的に作品をリリースしている。中村一義 オフィシャルHP

OKMusic編集部

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