ニューシングル「思い出になれ/愛という宝物」から垣間見れる奥華子の新しい表情。それはデビュー10周年を経て、彼女が次のフェーズに入ったことを意味している。
取材:石田博嗣

デビュー10周年企画で開催された『奥華子 10周年ありがとう!弾き語り全曲ライブ!』はやってみてどうでした?

最初は声が出るか不安だったですけど、“できた!”という自信になりましたし、今まで十何年やってきた中で一番印象深いというか、全てにおいて達成感のあるライヴでした。

4公演で約150曲を歌ったわけですけど、歌い切ったというか、全然余裕で歌ってましたよね。

4公演目が終わっても、まだ歌えるっていう感じで、私もですけど、周りのスタッフがびっくりしてました(笑)。

ある意味、ランナーズハイですね(笑)。

そうですよね。打ち上げのあと、夜中の4時だったんですけど、カラオケに行こうって誘ったら誰も付き合ってくれなかったです(笑)。

すごい!(笑) 観ているだけでも体力を奪われましたよ。

きっと聴いている人のほうが大変だったと思います。動けないし、食べたり飲んだりもできないし。ほんとは出入り自由にして、もっとラフな感じのものをイメージしていたんですよ。でも、普通のコンサートと同じぐらいの集中力で聴いてくれたんで、みんなのほうがすごいなと思いました。

弾き語りだったから、やっぱり聴き入ってしまいますよ。

それが奥華子の武器なんだと再確認できましたね。アレンジで聴かせるんじゃなくて、弾き語りで成立するというか。歌詞と歌に力がないと弾き語りで歌えないので、そこが大事なんだと改めて思いました。

これまでにリリースしてきた約150曲を披露したわけですけど、それらの曲に対しては?

デビューしてからは曲がスムーズにできなかったし、アルバムを作るたびに毎回苦労してきた印象が自分にはあったんですけど、だからこそできた曲なんだなって。アルバムの端にあるような、なかなか歌う機会のない曲にも思い入れがあるし、全ての曲にちゃんと意味があると思えたんですよ。なので、やっと自分を認められたというか。今まで自分がやってきたことに対して“間違ってなかったな”って。“154曲、ちゃんと作ってきたんだな”って思えました。

さらにシークレットソングとして、レアな曲も歌われていましたが。

ずっと歌っていない昔の曲が何曲かあったんで、その中から今でも歌えるものをシークレットソングとして歌わせてもらいました。中でも「小さなアリ」という曲がすごく反響があって、CDにしてほしいという声もあったし、全曲ライヴの時の音源を聴いてもらうのもいいかなって思って、今回のシングルの3曲目に入れることにしました。

スタジオレコーディングするという選択肢はなかったのですか?

スタジオで録ろうって思ったりもしたんですけど、昔の曲を弾き語りで録るのって難しいんですよ。であれば、いつかのタイミングで未発表曲を全部弾き語りで入れたアルバムを作るとか、そういうほうがいいなって。今じゃなかったんです。

なるほど。ちなみに「小さなアリ」はどんな曲を作ろうとしたのですか?

まだ十代の頃で…“何のために生きているんだろう?”とか“人間とは何だ?”って全てのことに疑問を持っていたんで、それをそのまま歌詞にしていたんだなって思いますね。詳しくは覚えてないんですけど(笑)。

すごいストレートな歌詞ですよね。《人の中で生きていくことが 何よりも怖くて》というフレーズとかリアルだし。

自分もそうなんですけど、人の身勝手さ、人の怖さを感じていたんでしょうね。人間って地球上のものを全部支配しているじゃないですか。自然災害には勝てないくせに。それって何なんだろう?みたいな。でも、自分もそんな人間だし、そうじゃないと生きていけないし…。

十代後半の頃に陥りがちな葛藤ですよね。

まさに、そういう感じの曲です。

では、デビュー10周年企画の全曲ライヴのアンコールでも披露された「思い出になれ」ですが、サウンド的にはさわやかで明るいのに切ない曲ですね。

そうですね。この曲は全曲ライヴで新曲を歌いたいと思って作った曲のうちの一曲で、これがいいなってなったんですけど。この曲ができたきっかけは…お風呂の中で《思い出になれ》というサビのフレーズと歌詞ができたんですよ。なので、“思い出になれ”という言葉から作っていった感じですね。明るく自分に“思い出になれ”って言い聞かせてるんだけど、涙が勝手に出てきちゃう…そういう曲にしたいと思って、あえて曲調はさわやかで明るい感じにして、歌詞は思い出にしたいんだけどできないっていう、男性ならではの純情さを描きました。

最初から主人公は男性にしようと?

そうですね。女性ってすぐに思い出にできると思うので。

男は引きずりますからね。では、この曲を何曲かあった新曲の中から選んだ理由というのは?

周りのスタッフにも聴いてもらったら、みんなも“この曲、いいよね”って言ってくれたし、私自身もすごく気に入ってたし。奥華子っぽいんですけど、新しいというか。前向きな感じもあるし、いいんじゃないかなって。

編曲も華子さんなのですが、イントロやBメロやサビのコーラスワークだったり、アコギのアルペジオのフレーズが印象的でした。

どういうアレンジにしようかなと思った時、弾き語りではないと思ったんです。アコギのイメージがすごくあったんで、ギタリストの方に来ていただいてアコギと一緒にやって、そこにドラムも自分で打ち込めばいいかなと思ったんですけど、“せーの”でやったほうがいいかなと思って、ドラムとオルガンとギター、そして私の4人でセッションするみたいにスタジオで録りました。最初はこんなにコーラスを入れるつもりはなかったんですけど、“何か足りない”って思って入れてるうちに…イメージがあったんですよ。昭和のフィルムみたいな懐かしい匂いがすればいいなって。それでいっぱい入れてたんです。

今までにないコーラスの入れ方になりましたね。

ないですよね。普段はハモりもそんなに入れないので珍しいです。今までは “こんなにコーラスを入れたら奥華子っぽくない”って頑固になったりしてたんですけど、だんだん自由になってきたというか。“こういうのもありかもね”って。

もう1曲の「愛という宝物」は『2016 cross fm official GREEN campaign song』なのですが、テーマは決まっていたのですか?

そうなんです。エコのキャンペーンということで、“自然”と“愛”をテーマに曲を作ってって言われました。“明るい曲でね”って(笑)。“自然”と“愛”ってすごく大きいなテーマじゃないですか。大きな木も最初は小さな種で、小さな葉っぱから育って今につながっている。人間も誰かと誰かが好きになって命がつながっている。ってことは、目の前の人のことを好きになったり、会いたいって思うことが全てにつながっていて、それが愛なんだなって。すごく漠然としているんですけど(笑)。そういうイメージで作った曲ですね。

《「愛」という宝物だけが いつもこの胸にあればいい》と言い切ってますしね。

結局、それしかないし、それさえあれば生きていける。大袈裟なようだけど、そこなのかなって。それで明るい曲っていう(笑)。さわやかさをイメージして…“I Love You”なんて言ったことないんですけど(笑)。だから、この曲も新しい感じなのかなと思います。

バンドサウンドがさわやかで、すごくピースフルな印象を受けましたよ。

アレンジもそんなに凝ったことはせず、リズムパターンを作ってもらって、そこにギターを入れてもらって、あとは自分でやって…ほんとシンプルですね。

「思い出になれ」はアコギでしたけど、「愛という宝物」はエレキギターのカッティングで、ギターソロも曲のスパイスになってますね。

うんうん。すごくギターの存在感があって、それが新鮮だし、明るさにもつながっているというか。ピアノを主体にするとどうしてもリズム感が出なかったり、“自分なり”になってしまうんですよ。奥華子なりというか。外を向けなくなっちゃうんです。だから、すごくギターの人の存在が大きいですね。

バンドサウンドにしたり、ギターを入れることで、奥華子っぽさを壊してもらう?

そんな感じですね。なので、このアレンジはすごく気に入ってます。うまくいったなって。

では、今回のシングルですが、どんな作品が作れた実感がありますか?

全曲ライヴというひとつの節目が終わって、丸11年で、12年目に入ったところなんですね。“10周年ありがとう!”って言っておいて、分かりにくいんですけど(笑)。そういうことは別にしても、“やらなきゃいけない”“作らなきゃいけない”とかじゃなく、作りたいものが作れているし、やりたいことができている。全曲ライヴも自分がやりたくてやらせてもらったし。やっぱり今までって追われてやってきこともあったし、いろんなことが自分の中で整理できないままでいたこともあったんですけど、今回のシングルは全てにおいて自分で“これはどうしようかな?”って考えながら作ってこれた感じがしますね。

奥華子として次のフェーズに立てている?

そうですね。ほんと、あの全曲ライヴっていうのは、もうこれ以上ない!ってところまでやれたので、それが良かったと思います。反省点もあるし、“もっとこういう曲が欲しい”とかも思ったんですけど。やんなくちゃいけないことはいっぱいあるし、作りたい曲もたくさんあるんで、まだまだだなって思ってます。
「思い出になれ /愛という宝物」
    • 「思い出になれ /愛という宝物」
    • PCCA-04427
    • 2016.09.21
    • 1200円
奥華子 プロフィール

オクハナコ:シンガーソングライター。キーボード弾き語りによる路上ライブをはじめ1年間で2万枚のCDを手売りし驚異的な集客力が話題となり2005年メジャーデビュー。劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌「ガーネット」で注目を集める。聴く人の心にまっすぐ届く唯一無二の歌声は年齢問わず幅広く支持されている。また数々のCMソングや楽曲提供を手掛けるなど活躍の場を広げている。奥華子 オフィシャルHP

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