【セプテンバーミー】“歌詞は五感を
揺さぶる最後のアレンジ”というスガ
シカオさんの言葉に影響を受けた
ギターのタナカ・ターナを正式メンバーに迎えた新生バーミーの新作は、彼ら流のポップを突き詰めた濃厚作。ドイヒロト(Vo&Gu)初の女性目線の歌詞など、言葉へのこだわりにも注目!
取材:石角友香
4人体制での初音源ですが、バンドにとって大きな確変があるとしたら何でしょう?
ドイ
サポートだった時期もタナカの威力はあったんですけど、正式メンバーになってからはお互いの曲に対して、さらに突っ込んでディスカッションするようになって、越えられなかった一線を越えられたと思いますね。
タナカさんのちょっと歪なギターがあることで、ドイさんはフロントマンに徹することができているような。
ドイ
タナカのいい違和感は自分にはすごく必要なものでしたね。
ちなみにタナカさんがサポートから正式メンバーになった経緯って?
タナカ
一時期、サポートを外れた時があったんです。そういう時に外から見ていたら、ドイさんがギターヴォーカルをしつつライヴスケジュールの調整をしたり、“自分でどうにかしてやろう”っていう感じになっていて、いつか潰れちゃうんじゃないかと。誘われたタイミングも良かったし、俺も支えになりたいと強く思ったんです。
なるほど。アルバムに着手したのはいつ頃なのですか?
ドイ
47都道府県ツアーが終わった翌々日からもう始まっていて。でも、バンドの健康状態もいいというか、勢いがあるままレコーディングに取り組めたので良かったですね。
ココナッツ先輩
どちらかと言うと曲を用意する時のほうが辛かったイメージがありますね。3月に2週間ぐらいのツアーがあって、その最中にスタジオに入って曲を作ってたんですが、ライヴもあるし、もちろん移動もあるし。だから、今回は執念の曲たちというか(笑)。
ドイ
そう言えば、鹿児島のスタジオが凄まじかったですね。山奥のプレハブみたいなところで、一応防音室なんですけど卵のパックが貼ってあるようなところでした。
岸波
シンバルもボロボロで、“え? ここでやるの?”みたいな。
ドイ
そこで詰めて詰めて、岸波が“もう叩けない”って泣いちゃって。
岸波
叩けないっていうか、自分の体がもう言うことを聞かなくて、いつもできてたことができなくなっちゃって…。
ココナッツ先輩
そのあとみんなで焼肉食べに行ったんですけど、ちょっといい飯食べたら復活しましたね(笑)。
岸波
みんなも食べたかっただけじゃん(笑)。男メンバーの中でやるのはもう慣れてるんですけど、さすがに2週間はキツかったですね、いろいろと。
そういう映像こそ観てみたいと無責任に思ってしまいました(笑)。そこで、このアルバムに取り掛かるにあたってメンバーが一番考えたことってどういう部分でしたか?
ドイ
これまでのセプテンバーミーとは違うセプテンバーミーに突入したんだなってすごく感じてたので、この4人でしか鳴らせない音を自然に追求したいと思ってたんです。“こういう曲作ろうぜ!”というよりは、4人で作るものを自然に受け入れようみたいな。俺は特にそこを意識しました。
確かに1曲目の「27club」は今までになくポストパンク色が強いし。
ドイ
それは意識したんで嬉しいです。これがさっき言ってた岸波がドラム叩けなくなっちゃった曲なんです。ワンセクションの中でも“ここのキック一発は絶対こう”とか、すごく詰めたので。
リード曲の「彼女inワンダーランド」のMVにはかなり病んでる女性が登場していますが、曲にはどんな意図が?
ドイ
MVはそうなんですけど、もともとは女の子目線で書いてみたいなと思ったのがきっかけで。今までは自分目線でしか書いたことがなかったんですよ。ダメな男だって分かってるのにはまっていっちゃう…みたいな内容です。レコーディングの時期にスガ シカオさんとお会いする機会があったんですけど、“歌詞は人の五感を揺さぶることができる最後のアレンジだから、情熱を持って書きなさい”って言われて。なので、今作の歌詞は歌入れの前日ギリギリまで粘って書いたものがほとんどなんです。
岸波
昔は歌重視でドラムを完成させたかったんですけど、今はドイの作るものを信じているし、音源が良くなれば自分のこだわりは別にいいと思えるようになって。
なるほど。ディスコマナーな「彼女inワンダーランド」とは打って変わって「テレキャスターマジック」はロックを信じてる感じがロマンチックで、《テレキャスターを鳴らして くだらない未来を君が今、壊すんだ》ってフレーズもいいですね。
ドイ
分かりやすく“ロックをやりたい!”って感じですよね。俺としてはいつでも自分の中のJ-POPを鳴らしてるつもりなんですけど、“捻くれてる”って言われることが多くて。なので、1回そのピントを合わせる必要があるなと思って、自分が歌いたいことが何なのかをちゃんと意識して、この曲ならアレンジは王道でストレートなロックだとか、ちゃんと届く楽曲を作りたいなと思って作りました。
ドイさんにとってJ-POPってどういうものですか?
ドイ
普遍的なものっていうイメージ。なので、メロディーとかサビのキャッチー感はロックな曲の中でも探してます。
タナカ
洋楽も好きだけど、俺もJ-POP育ちで。踊れる曲ってたくさんありますけど、歌によって心も踊るというか(笑)、歌に沿ったアレンジをするのが好きなんです。
今やジャンルが細分化されすぎていて、チャート1位のアーティストがJ-POPを代表する曲をやってるかというとそうでもないし。
でも、ドイさんはJ-POPを更新していきたいと?
ドイ
そうですね。それこそど真ん中に行きたいと思っています。
タナカさんもJ-POP育ちと言ってましたが、今なら誰が面白いですか?
タナカ
今一番面白いJ-POPは星野 源さんとかですかね、音楽的に。ライヴも観たんですけど、やっぱすごいカッコ良いし。
なるほど。タナカさんの認識は音楽好きな人には納得感のあるJ-POPかもですね。
そして、「LOVE DIVER」は今の話の流れで行くとすごくJ-POP感のある曲だなと。
ココナッツ先輩
“今のJ-POPってこれかな”っていう。
岸波
すぐ映像が浮かぶもん。こういう曲のPVありそう。
ドイ
サビを3回繰り返すのとかは90年代のJ-POPを意識したというか。あとは「彼女inワンダーランド」は女の子視点なんですけど、この曲はもう完全に女の子の気持ちを歌ってるというか、同じ世界観で対になる曲みたいな感じで作りました。
そして、次の「夕闇とサイレン」は終盤のシューゲイザーっぽいギターサウンドが印象的です。しかも長いですよね、あのパート。
ドイ
そうなんです(笑)。確かにあのセクションだけやたらシューゲイザーというか、ノイジーな感じですね。
今回のアルバムの中では珍しい叙情性なのかなと。
ココナッツ先輩
メロディー自体も叙情的で、そこはバンドにもとからあったところかもしれないですね。
タナカ
ああいう音の壁みたいなアレンジを今まであんまりやってこなかっただけで。
叙情性の出し方が変わったということですね。この曲は歌詞に季節感があって。
ドイ
そうなんですよ。この歌詞もレコーディングの前日に書いたんですけど、もともとの題材は10代の時に書いた遺書なんです。
え? 本気のヤツですか?
ドイ
本気のヤツです。本当に死のうと思った時があって、その時の遺書で歌詞を作ってたんですけど、なんかちょっとチープに感じてしまって…結局、前日にまたギリギリまで粘って書いて。
当時の遺書を読んでドイさんはどう思ったんですか?
面倒くさい人ですねぇ(笑)。
つまり、今は客観視できるということですよね?
ドイ
そうです。完全に“あの日の自分”って感じで。この題材で書きたい気持ちはずっとあったんですよ。ただ、パッと見たら不快に思ったり、不幸自慢に思っちゃうリスナーもいるのかなと。自分はその時のことをそう思われるのは嫌なので、これはもっとちゃんと自分の中でまとまった時に書くべき題材なのかなと思って、今回もまたオカルトなほうにいっちゃうんですけど(笑)。
オカルトに寄ってるけど、名曲感がありますね。
「CRシュレディンガーの猫」は2回目のレコーディングですか?
岸波
再録ですね。前回は会場限定シングル(2014年8月発表の「CRセプテンバーミー」)のカップリングみたいな感じだったので。
ドイ
前回の音源を聴いてみて、サウンド的に自分たちのスキル不足を感じたので、せっかくライヴ映えする曲だし、特に勢いやライヴ感は一番出したかったんですよね。
そして、終盤にタナカさんの曲が2曲続きます。「New World Order」はシティポップ的ですね。
タナカ
そうですね。最近のシティポップも大好きですし、ソングライターとしてちゃんとしたポップスを作りたいモードだったので。
バンドとしては新しいタイプの曲じゃないですか?
岸波
これが一番大変だったよね。レコーディングにしろ、いろんなことが…。
タナカ
歌のやりとりもそうだし、ドラムも今までやってこなかったカントリーっぽいリズムにこだわってやりたかったし、ベースの動きもそうですし。
ドイ
実は最初、この曲は歌いたくなかったんですよね。
というと?
ドイ
タナカとナッツ(ココナッツ先輩)の会話の中で、タナカが“星野 源さんのインスパイア的な立ち位置の曲”って言っているのを聞いたんで。人の曲に詞を乗せるのが初めてだったので、それがなんだか飲み込めなかったんですよ。
まずいじゃないですか。で、どうなったんですか?
ドイ
最終的にエンジニアさんに諭されたんです。“実は俺歌いたくないんです”って理由とともに話したら、“いや、ドイくん、それは誤解だよ”と。“タナカくんほどの音楽人がちゃんと考えてやってることだから”っていう話から“世の中にコード進行なんてそんなに何パターンもないから”っていう話まで。
なんでエンジニアさんに諭されてるんだ!?という(笑)。
岸波
もう私が歌うっていう案やふたりで歌うっていう案も出てきたり。もう歌わないと思ったから私も歌詞を考えて、歌う準備もできてたんですよ。
ココナッツ先輩
間に合わなくて仮歌は俺が歌ってるし(笑)。
ドイ
でも、タナカに対して俺も踏み込めた分、歌詞はタナカに向けて書いたような内容になりました。
ココナッツ先輩
そう思って聴くとちょっとホモホモしい(笑)。
ドイ
友情です!(笑) でも、うやむやにせずにタナカとちゃんと喋れたのは良かったですね。
そして、少し不穏な「Unicorn」で終わるという、とてもミニアルバムとは思えない濃い作品になりましたね。
ドイ
このアルバムがリリースされてからは、新しいセプテンバーミーをライヴでもしっかり提示していくことが一番大事なんじゃないかと思ってます。
- 『絶対的未来奇譚』
- CCN-002
- 2016.09.21
- 2000円
セプテンバーミー:2012年11月、東京都立川にて結成。全てをセルフプロデュースで行なう傍ら、アグレッシブなライヴがさまざまなシーンで話題を呼ぶ。16年3月、かねてよりサポートギターを務めていたタナカ・ターナを新メンバーとして迎え、4人編成となる。セプテンバーミー オフィシャルHP