L→R ササキジュン(Gu)、青山友樹(Dr)、きみコ(Vo&Gu)、アベノブユキ(Ba)

L→R ササキジュン(Gu)、青山友樹(Dr)、きみコ(Vo&Gu)、アベノブユキ(Ba)

【nano.RIPE】有終の美と新生の片鱗
 現メンバーでの最後のアルバム

『鉄コン筋クリート』をテーマにしたけ
ど、バンドのことを歌った曲になった

今作では、そういう新しいnano.RIPEの片鱗が、すでに見え始めていますね。例えば「在処」はピアノが引っ張っていくアレンジで、今までにはなかったし。

これは1年以上前に書いた曲なんです。バンドだけのアレンジもやったんだけど、ピアノとシンセを入れたら映えるんじゃないかと思って。ピアノだけどしっかりロックしたものになって、世界観が広がったものになりました。

歌詞に出てくる《きみ》がジュンさんで、ふたりで生きていく、ここが自分たちの在処だと歌っているような感じで。でも、メンバー脱退の前に書いていたんですよね。

そうなんです。そういうつもりはないのに、そう受け取れちゃうんですよね。

じゃあ、どういう心境で書いていたのですか?

実は、「在処」「イタチ」「ものがたり」の3曲は、あたしが大好きな漫画の『鉄コン筋クリート』を題材にしています。「在処」は、『鉄コン』に出てくるクロの目線で、《きみ》はシロのこと。

『鉄コン』となると、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが歌った映画主題歌の「或る街の群青」のイメージが強いですよね。

そうなんです。あの曲が良すぎて、それを超えるのは難しいのですが…でも、自分なりのものが書けたらと思って、昔から何度もチャレンジしていて。それが今回思うように書けて、たまたま3曲もアルバムに採用されたという。だから、急に『鉄コン』で書こうと思って書いたわけではないんですよ。「ものがたり」は2年くらい前に部分的に作っていたし。今回「在処」ができたことで、それに引っ張られる感じで、他の2曲も完成させることができました。

「イタチ」は『鉄コン』に出てくるキャラクターの名前そのままですしね。これはダンスロックっぽい感じで、こういうタイプの曲も新しいですね。

これはジュンが編曲して、各パートはジュンのデモをコピーする感覚で作って、ジュンのやりたいことを詰め込んでいます。歌詞は言葉数をものすごく詰め込んで、早口で歌っているのも特徴ですね。曲としては「スノードロップ」がエンディングテーマになった『食戟のソーマ 弐ノ皿』の時の候補曲のひとつとして作ったもので、歌詞を新たに書いたんです。

「ものがたり」もクロの目線ですか?

そうです。あたしはシロ目線ではなかなか書けなくて、クロ目線でシロのことを書いています。ですが、歌録りの時はふたりの脱退が決まっていたので、歌詞の《きみ》と《ぼく》が、自然にジュンとあたしのことと重なって。もともとは『鉄コン』を意識して書いているけど、最終的にはnano.RIPEのことを歌った曲になったなと思いますね。

ピアノと歌で始まり、ストリングスっぽいシンセやさまざまな音が入ったアレンジで。明るいけど泣けてくるような、バンドという枠を飛び越えたサウンドですね。

これはnano.RIPEだけでは作れなかった世界観ですね。もともとはあたしのアコギと歌だけのデモで、それをアレンジャーの福富雅之さんにお渡しして、アレンジしていただきました。切なくもファンタジーな、あたしが思い描いていた世界をそれ以上の音にしていただいた感じです。「在処」も福富さんのアレンジで、『鉄コン』のことは伝えていたか覚えていませんが、「ものがたり」と「在処」の主人公は同一人物だと伝えていたので、それも含めてアレンジしてくださっています。

ちなみに『鉄コン』はどういうところが好きだったのですか?

あの作品はすごく哲学的で、見た人読んだ人によって解釈が違うんです。自分の解釈では、シロ、クロ、イタチは全部ひとりの人間の心の中を表していると思ってて。それが自分の中の白い部分、黒い部分、クロよりさらに悪いイタチという存在がたまに誘惑してくる…そういう自分の心と重なって、すごく共感したんです。苦悩や葛藤が描かれていて、あたしのために描かれたものなんじゃないかと思うほどでした。松本大洋さんの作品は、他に『ピンポン』なども有名で好きなのですが、やっぱり『鉄コン』が一番ですね。

また、「ディア」はさらにスケールの大きなサウンドの楽曲で、前に進むような力強さがありますね。歌詞はファンに宛てて書いている?

はい。ファンへの手紙のような感覚です。ふたりの脱退はもちろんショックだったし、悲しかった。それでもジュンとnano.RIPEを続けよう思って、でもそれにはどうしたらいいか、いろいろ考えた時期があった。そういうふうに何か考えたり、煮詰まったりすると、あたしは必ずファンからいただいた手紙を読むんですけど、この時もそうで、“音楽を続けていくんだ!”と決意を新たにしました。今回のアルバムは『鉄コン』をテーマにした曲もあるけど、それも自分と重ねて書いているし、自分自身のことを歌った歌詞が多いなと思っていて。やっぱりこういうタイミングだし、1曲くらいファンに向けて直接気持ちを伝える歌詞があってもいいんじゃないかと。それで、みんなからいただいた手紙の返事を書くような気持ちで書きました。《あたしからは離さない》という歌詞は、今回の脱退で離れていく人もいるかもしれないから、あたしはそういう人を無理に引き留めないけど、自分からは絶対にその手を離さない。少なくともそのことは伝えたいと思って書きました。

そして、「終末のローグ」は、実にnano.RIPEっぽい曲ですね。

たくさんいろんなことを取り入れているアルバムだけど、これまでやってきたことを捨てたわけじゃない。選曲段階で、いわゆるnano.RIPEらしい曲を1曲は残そうと決めていました。歌詞は前のリズム隊が抜けた時のことを書いていたのですが、たまたまノブと友樹が脱退するというタイミングになったので、ラストに収録するのが相応しいと思って。

ジャケットのデザインもだいぶ変わりましたね。

いつもはイラストや写真なんですけど、今回は初めてメンバー全員の顔が写っています。こういうのは最初で最後。せっかくなので、卒業アルバムみたいな感じかな(笑)。
『スペースエコー』2016年10月19日発売Lantis
    • 【初回限定盤(2CD)】
    • LACA-35580 3672円
    • 【通常盤(1CD)】
    • LACA-15580 3240円
nano.RIPE プロフィール

ナノライプ:前身バンドを経て2004年にnano.RIPEとなり、地元である千葉・東京を中心に本格的な活動を開始。08年、インディーズレーベルよりミニアルバム『空飛ぶクツ』を発売。草野マサムネ(スピッツ)など多くのアーティストから推薦コメントが寄せられ、話題となる。10年、Lantisよりメジャーデビュー。その後、メンバーチェンジを経て、現在はきみコとササキジュンのふたりで活動を続けている。nano.RIPE オフィシャルHP

OKMusic編集部

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