取材:土屋京輔

鋭いモノを演奏なりメッセージなりで出
していきたいし、それでいて人を熱く包
み込むような気持ちもある

前作『THE BACK HORN』が単にそれまでの活動を総括したものではなく、新たな一歩を踏み出したアルバムであったからこそ、新作『パルス』のレコーディングにもスムーズに臨んでいけたと思うんですね。とはいえ、今回はコンセプトはなかったと伺っているのですが、それぞれが思い描くアルバム像はあったのかなと思うんです。

松田
そうですね。『THE BACK HORN』の時は、わりと1曲1曲にパーツを任せるというか、いろんな世界観を曲ごとに集中させて作っていったんですよ。でも、そういう構築した大きなアルバムを作ると、もっと削ぎ落とした、ある種、骨だけみたいなものがやりたくなってきてたんですよね。みんなで漠然と“どういうアルバムにしようねぇ?”なんて話をしてた時に軽く出てきた言葉としては、“バンド感”とか“熱さ”とかだったんです。本来はそこから“熱さとは何か?”とか“バンド感とは何か?”みたいなところを考えていくことになるんですけど、今回はその言葉だけで、みんなの中で想像できてたと思うんです。「罠」というシングルが出た時に、新しいTHE BACK HORNの勢いも感じられたと思うんですよ。例えば、「声」とか「サニー」とか、赤い炎を前面に出したような曲とはまた別の、ダークさもありながら激しく熱い曲というふうに持って行けたところはあったんで、そこで開いた扉をもっといろんな方面に広げていけば、多分、アルバムはトータル的に、勢いもあって、バンド感もギュッと固まってる…実際に仕上がったこの形になるんだろうなって。
菅波
やっぱ「罠」がTHE BACK HORNというものを新しい解釈で集約したような曲だったりしたんですよね。光も闇も優しさも絶望も全部入ってるというか。それを両極端に出してたのが『THE BACK HORN』だと思うんだけど、「罠」は天使と悪魔が一体になってる…それがすごく人間っぽいなぁって。そこから今回のアルバムにだんだんつながってくるんだけど、あの曲ができた時点で、始まりと終わりは意外ともうつながっちゃってたんでしょうね。同じ時期にできた「人間」と「生まれゆく光」も最終的にアルバムの最後に来るわけで。結構、導かれるようにして作ってたんですよ。あとは感覚的に“今、バンドの全員が単純に熱くなれるものは何だ?”っていうところで、音を出してったから…うん、“イメージより先に音を出してた”みたいな感じでしたね、今回の作業は。

熱くなれるものの塊がそれぞれの曲に入っていると。

菅波
うん。でも、デタラメに燃えさかる赤い炎じゃなくて、すごく研ぎ澄まされた高温の青い炎みたいな熱さ。俺らの中では鋭いモノを演奏なり、メッセージなりで出していきたい気持ちはどこかにあるし、それでいて人を熱く包み込むような気持ちもある。そういうのがひとつに合わさる感じだったのかなぁ、今回は。

熱く燃えるにしても、そこには明確な意思がある?

菅波
何かあるのかもしれないですね。
岡峰
感覚的にできていったというのは、すごく分かるところなんですよね。『THE BACK HORN』の時は、こういう曲があるから次はこういう方面の曲をいこうとか、そういうところもすごく練ったんですね。今回は逆にそれを考えなかったんですよ。特に色分けもせずに感覚でできていったものを並べていく中で、何か筋の通ったアルバムになりそうだっていうのが分かってきたというか。みんなの共有した感覚はあったと思うんですけどね。削ぎ落とされたアルバムって、どういうわけかコンパクトにしっかりまとまってる曲が多いんですよ。やっぱそれもどこか導かれた感があるんですね、余計なものはいらないみたいな。
山田
より感覚的に作っていった方が、自分らも面白いだろうなという気持ちで作っていってましたね。まぁ、感覚はいつも使ってるけど、衝動的な感じなのかな。そこを信じたところはありますね。1月にベスト盤を出したじゃないですか。そこで自分らのことを振り返る時間もあったし、どこか4人とも矛先が同じ方を向いてて、口で説明しなくても、アルバムの曲作りは感覚的に共有したものがある中でできましたね。

感覚的って言葉はすごく難しいですよね。何も考えない状態ではありながら、無意識的に一定の方向にきちんと向いた上で、自然と体が動いていることもあるというか。

山田
多分、どっちもありますね。ボケーッと作ってた時もあっただろうし。でも、みんな同じところでOKを出せてたというのが、その感覚を共有できてたことだと僕は思うんですよ。そのタイミングが一緒であればあるほど、強い曲になるような気がするなぁ。
菅波
全員が冴えてれば冴えてるほど、やっぱいいんですよねぇ。削ぎ落とされた感じになるのは分かる。感覚がすげぇ冴えてたってことですね、今回は。

話し合ったわけでもないでしょうけど、4人がより主体的に制作に臨んだような印象はすごく受けたんですよ。

松田
そうですね。すでに客観性とかも含めた感覚なんでしょうね。どうなるか分かんないってことじゃなく、熱さもあって、バンド感もあって、凛とした雰囲気も流れてて…みたいなものを想像できてるからこそ出てくる曲であったり。それは聴いた人にも、今回のアルバムは同じ世界観の中に11曲があるってふうに伝わると思いますね。

そういう意味でも「罠」「人間」「生まれゆく光」は、アルバムを象徴するものという捉え方でいいのですか?

菅波
いや、それは聴く人によると思うんですけどね。
山田
軸にしようみたいな話も全然なかったもんね。
菅波
うん。ただの生まれた始まりと終わり、俺らはそういう道のりだったんだと思ったということなんですよ。何かテーマを掲げるわけでもなくてね。だけど、不思議なもんで、めっちゃメッセージ性が強い気もするんです。でも、これがメッセージなんですって一所懸命喋る気にもならない。何かね、それも聴いたら伝わる感じがするのが、今まで以上にあるんですよ。何でだろう?
松田
その3曲は今までTHE BACK HORNが歌ってきた3方向のメッセージの集約でもあると思うんですよ。その意味では、言葉もすごく削ぎ落とされたものだと思うし。生きるということについて歌ってきたTHE BACK HORNの答まではいかないかもしれないけど、ここでポロッと出たメッセージなんだとは思いますね。

今回の反射神経はすごかった実感がある

アルバムの冒頭に置かれた「世界を撃て」は、ラジオでリスナーの悩みを聞いたところに生まれた発端があるそうですが、具体的にはどんな思いがあったのですか?

菅波
高校生ぐらいの時に、俺、自分の悩みとか葛藤とかを吹き飛ばしてくれるような曲に出会ったことが結構あるんですよ。そういうものであったらいいし、そんな力がこもった曲になったらいいなぁと思いながら、レコーディングとかやってたなぁ。

なるほど。実は聴いた瞬間に、THE BACK HORNは揺るぎなくここにいるんだといった勢いを図らずも叩き付けられた感覚がすごくあったんですよね。

菅波
うれしいですね。それを感じてほしいという気持ちだけで音楽をやってるわけじゃないけど、聴いてくれた人の力になるっていうことのひとつはそういうことだと思うんですよ。“あいつら相変わらずやってるんだな、俺も頑張ろうかな”みたいな。それをやり続けたいと思うし。俺らはまだまだこれからずっと走っていくぞっていう、決意表明みたいな感じで響けばすごくいいなとは思ってますね。
岡峰
これを最初に聴いたのは曲作りの合宿の時だったんだけど、栄純が“できた!”ってギターを鳴らして、松がそこに感覚的に合わせていったんですよ。俺はそれをブースで聴いてたんだけど、その瞬間から完全にこの曲でしたね。歌詞はその後にすごく精査したんだろうけど、それ以前にギターとドラムだけの段階で突風感はあって、単純に何か見えてるなぁとは思いましたね。一緒のところで想像を共有できてたんですよ。アルバムの1曲目になったのもすごく納得できるし、意味をなしてる。今回のアルバムは特にそういうのが多いですね。だから“感覚的に”って言葉が自然にみんなから出ちゃうぐらいなんですよ。
山田
聴いた時は、すごく真っ直ぐで、ムダがない感じがカッコいいなと思いましたね。こってりしてるんだけど、他に何も引き連れてない感じ。何か一点に向かっているぐらいのすさまじさがあってね。
松田
いろんな積み重ねがあった中で、今回の反射神経っていうのはすごかったなぁという実感はありますね。

確かに。それは何年か前のTHE BACK HORNの反射神経ではないですよね。もちろん綿密に組み上げていく素晴らしさもあるし、その瞬間じゃないと生まれないものもある。その両方を兼ね備えた判断力が今のTHE BACK HORNにはあるのかもしれませんね。

菅波
そうかも。“音楽やってる”って感じがするなぁ。

その絶妙なバランス感覚が『パルス』にはあるんでしょうね。また一方で興味深いのがリリース後のツアーですよ。6月に日本武道館公演をやったかと思えば、今回は小さなライヴハウスを回っていく。どこでも自在に立てるバンドではありますが、今回はなぜこのような選択を?

松田
アルバムができる前に何となくその時に抱いていた今回のアルバムのイメージが、『THE BACK HORN』のような、ホールでバーンと拡大して広がっていくような曲じゃなさそうだなって感じはあったんですよ。じゃあ、ほんとに汗をかきながら、肉体でも伝えられるようなライヴハウスを回ろうって話に決まって。あとは、武道館でやって、そのまま大きいところにしがみつきながらよじ登っていくよりは、足下をもう一回見直すのもいいんじゃないかなって。でも、これはやってみないと分からないことですからね。例えば、Zeppとかでも、意外と壮大に響くんじゃねぇかなって見えてきたりもしますから。
山田
かなり熱くなるところが多いアルバムになったから楽しみですね。今までも何回もツアーで壁にぶち当たってきたけど(笑)、その経験を活かしてどれだけいいライヴができるのか…そんな自分にワクワクしてますね。
菅波
“創造のパルス”ってツアータイトルも奇しくもいい名前だなと思ってるんですよ。新たな鼓動を打つ感覚というか、新鮮な気持ちでドキドキしながら、ひとつひとつのライヴやりたいって思いとかなりリンクしてて。毎回…生まれ変わるぐらいの気持ちでいっちゃおうと思います。
THE BACK HORN プロフィール

ザ・バックホーン:1998年結成。“KYO-MEI”という言葉をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けている。01年にシングル「サニー」をメジャーリリース。17年には宇多田ヒカルとの共同プロデュース曲「あなたが待ってる」が話題に。結成20周年となる18年、3月にメジャーでは初となるミニアルバム『情景泥棒』を、10月にはインディーズ時代の楽曲を再録した新作アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』を発表。また、ベストセラー作家・住野よるとのコラボレーション企画も注目を集め、2021年末にはフィジカルとして約4年5カ月振りとなる待望のシングル「希望を鳴らせ」をリリース!THE BACK HORN オフィシャルHP

OKMusic編集部

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