独特のグルーブ感で世界のディスコ界を席巻したシック。日本でも多くの曲が大ヒット、ディスコ愛好家にとっては決して忘れられないグループのひとつである。

シックというグループ

1970年代の後半、ほぼ全世界的にディスコブームが巻き起こっていた。都会ではどこでもディスコが激増し、ディスコ向けのダンサブルな音楽で一旗あげようと参入するシンガーやグループが多かった。しかし、質の良いグループは少なく、白人中心の似非ファンクバンドによる安易なダンスミュージックが横行していた時代でもあったように思う。
1977年、シックはギターのナイル・ロジャースとベースのバーナード・エドワーズを中心にデビュー。他のグループの追随を許さないハイレベルで洗練された音楽を提示し、あっと言う間にディスコ音楽のファンに認知されていく。

グループのメンバーは、ナイル・ロジャースとバーナード・エドワーズの他、ドラムのトニー・トンプソンと、ヴォーカリストとしてノーマ・ジーン・ライト(デビューアルバムのみの参加)、アルファ・アンダーソン、ルーシー・マーティンらが在籍していた。

デビューアルバムの『シック』(‘77)をはじめ、80年代前半までに8枚のアルバムをリリースしたが、80年代に入るとディスコ音楽は様変わりし、シンセサイザーを多用したヨーロッパ圏のユーロビート勢が優勢となる。アメリカのグループやシンガーの多くはディスコ音楽から撤退し、シックも解散することになった。

ナイル・ロジャースはその少し前からデビッド・ボウイの『レッツ・ダンス』(’83)やマドンナの『ライク・ア・ヴァージン』(‘84)などのプロデュースで大きな成功を収め多忙を極めていただけに、グループの解散は仕方のないことでもあった。92年には再結成するものの、96年にバーナード・エドワーズが来日公演時に死去、グループの継続は困難に。しかし、彼らが放った数々のヒットナンバーは、ディスコ周辺だけでなく黒人音楽全般に影響を及ぼし、洗練された独特のグルーブは今でも健在である。

1.「ダンス・ダンス・ダンス(原題:D
ance, Dance, Dance(Yowsah, Yowsah,
Yowsah))(‘77)

彼らが第一弾シングルとしてリリースしたデビュー曲。全米チャート6位まで上昇。この曲のヒットにより、同年リリースのデビューアルバム『Chic』も27位に食い込むヒットとなる。何と言っても、キレの良いギターのカッティングと重くてアタックの強いベースが魅力のナンバーだ。フィラデルフィア・ソウル(1)を思わせる華麗(というか派手)なストリングスや、合の手のように挟み込まれるヴォーカルが、タイトル通りダンスを煽る効果となっている。シックの結成前、ナイル・ロジャースはアポロ劇場の音楽ディレクターを務めており、その当時から新しいディスコ音楽のアイディアを練っていたことが窺える好ナンバーだ。

2.「おしゃれフリーク(原題:Le Frea
k)」(‘78)

間違いなくシックの最高の曲であり、全米チャート1位を獲得した記念すべきナンバー。2ndアルバム『C’est Chic』(‘78)に収録されている。今ではディスコ・クラシックの1曲として知られ、さまざまなディスコのコンピレーションに必ずと言っていいほど収録されている。シックのスタイルはこの曲で完成したと言え、特にナイル・ロジャースのギターカッティングはリズム楽器として非常に効果的であった。彼のギターワークは多くのフォロワーを生むことになり、ディスコ音楽の進化をもたらしたことは間違いないだろう。この曲の先進性を見抜いたデビッド・ボウイやマドンナほか多くのミュージシャンたちが、彼にプロデュースを依頼することになるのである。

3.「グッド・タイムス(原題:Good Ti
mes)」(‘79)

この曲は3rdアルバム『Risque』(‘79)に収録され「おしゃれフリーク」と同様、全米1位を獲得しているのだが、それだけでなく、この曲は大きな功績をポピュラー音楽界に残すことになる。同年、シュガーヒル・ギャングによるラップの世界初ヒット「ラッパーズ・ディライト」には、この曲のバックトラックが使われているのだ。要するに歌抜きの「グッド・タイムス」に合わせて、シュガーヒル・ギャングの3人がラップしまくるという曲。ヒップホップ文化を代表するラップの幕開けとして「グッド・タイムス」が選ばれたのは偶然ではなく、シックがミュージシャンとして時代の最先端を突っ走っていたからである。

4.「エブリバディ・ダンス(原題:Eve
rybody Dance)」(‘78)

1)と同様、デビューアルバムに収録されたダンサブルなナンバー。シングルカットされ、「ダンス・ダンス・ダンス」は超えられなかったものの、全米12位まで食い込んでいる。ナイル・ロジャースの研究熱心さが出たナンバーで、ちょっとアバっぽいメロディーが出るなど、ヨーロッパ的な雰囲気があるナンバーだ。ただ、ここでもバーナード・エドワーズのゴリゴリのベースとナイル・ロジャースのギターカッティングがシックらしさを強調していて、リズムセクションだけでも充分踊れるのではないかと思うぐらいのグルーブ感はさすが。

5.「バンドを作ろう(原題:Strike Up
The Band)」(’77)

この曲もデビューアルバム所収。シングルカットはされていないが、隠れた名曲なので取り上げてみた。スライ&ザ・ファミリー・ストーンとヴァン・マッコイを混ぜ合わせて、シック流のスパイスで味付けをしてみました…という感じ。デビューアルバムは全体的にディスコ向きに制作されているが、このナンバーはファンクとしての完成度が高い仕上がりになっている。もちろん、踊れる曲にはなっているが、ホーンセクションのアレンジやクラヴィネットの使い方などに、ナイル・ロジャースの緻密なこだわりがよく出ていると思う。名ドラマー、トニー・トンプソン(2003年没)の重厚なプレイも聴きものだ。

著者:河崎直人

OKMusic編集部

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